腸管内には大量の腸内常在菌が存在しているため、有害な病原性細菌は排除し、宿主にとって有益な働きをする腸内常在菌は適切に維持するための特別なメカニズムが腸管には存在する。私はショウジョウバエを用いて、この特別なメカニズムの解明に迫ろうと考えた。そこで、これまでに報告のなかったグラム陽性菌経口感染時の免疫応答の解析を行い、Imd経路を介してストレス応答因子の発現が誘導されることを明らかにした。この機構は既知の抗菌ペプチドの産生によらない全く新しい防御応答である。さらに、この防御応答の上流でグラム陽性菌の感染を認識してImd経路を活性化する機構は、既知の因子によらない新規の機構であることが示唆された。この機構として、私は病原性細菌や腸内常在菌に特有の低分子化合物を受容体が認識し、腸管での免疫応答を制御しているのではないかという仮説をたて検証を行うこととした。 本年度は、完全に微生物freeのハエを安定して作成し、さらに特定の細菌のみを定着させたノトバイオートハエも作成し解析を行った。無菌ハエが通常飼育時のハエと比べてどのような違いがみられるか、さらにその違いがノトバイオートハエでどのように変化するのかを調べるため、腸管を用いてRNA-seqにより網羅的に遺伝子発現変化を調べた。 その結果、無菌ハエの腸管において通常飼育ハエの腸管よりも発現量が低下していたものとして、生殖細胞の分化などに重要なRNA結合因子や、腸管幹細胞の恒常性維持や腸管の構造に重要な腸管上皮極性因子、さらには脂質代謝に関わる因子や複数のペプチドホルモン・神経伝達物質が見られた。これらの因子は、特定のノトバイオートハエにおいて発現の回復が見られるものと見られないものとにわけられた。 これらの結果から、ある特定の腸内細菌が免疫応答やストレス応答以外にも、特定の遺伝子発現や生理機能の調節を行っていることが示唆された。
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