研究課題/領域番号 |
15J03564
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
東野 功典 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | リバスチグミン / アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 / 統合失調症 / プレパルスインヒビション障害 |
研究実績の概要 |
ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンはアセチルコリン(ACh)エステラーゼ(AChE)阻害作用を有し、アルツハイマー病治療薬として使用されている。本研究では、これらの薬物の急性ならびに慢性処置期の薬理学的プロファイルを明らかにし、①アルツハイマー病治療における薬剤選択・治療ストラテジーの科学的根拠を提示すること、②新たな治療標的分子を同定することを目的とする。 ACh神経系の機能変化は、統合失調症の認知機能障害や感覚情報処理機能障害にも関与するとの知見が蓄積されている。当研究室ではこれまでに、感覚情報処理機能の指標として知られるプレパルスインヒビション(PPI)に着目し、種々のPPI障害モデル動物に対するアルツハイマー病治療薬、ドネペジルとガランタミンの作用解析を行ってきた。その中で、統合失調症の認知機能障害に対するこれら薬物の有効性の差異を動物モデルで再現することに成功し、その機序としてムスカリンM1受容体に対する作用の違いが関与することを明らかにした(Koda et al., Psychopharmacology 2008他)。 リバスチグミンはAChE阻害作用に加え、ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)も強力に阻害する薬理学的特徴を持つが、PPI障害に対する作用やBuChE阻害作用の治療的意義の詳細は不明である。そこで、リバスチグミンの薬理学的プロファイルの解析の一環として、リバスチグミンのPPI障害に対する作用、ならびに本薬物の脳ムスカリン受容体に対する作用について解析を行った。 その結果、リバスチグミンは大脳皮質前頭前野の細胞外ACh量増加作用、ならびにムスカリンM1受容体の感受性亢進作用を介してPPI障害を改善するという新たな薬理作用プロファイルを見出した(Higashino et al., Psychopharmacology Feb; 233(3): 521-8, 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病治療薬リバスチグミンの認知機能障害改善作用における神経薬理学的基盤の解明を目指して研究を進めており、平成27年度は主として以下の研究成果を得た。 ① リバスチグミンがムスカリン受容体を介して感覚情報処理機能障害モデル動物のプレパルスインヒビション(PPI)障害を改善することを見出した。 ② リバスチグミンのPPI障害改善作用には、脳内アセチルコリン量増加作用に加え、ムスカリンM1受容体の感受性亢進作用という新しい薬理プロファイルが関与する可能性を見出した。 以上の研究成果の主要部分は、学術論文として発表されている。 本研究は予定通り着実に実施され、期待される進展があったものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
リバスチグミンのM1受容体感受性亢進作用の発見は、全く新しい薬理学的知見である。今後は、M1受容体の感受性が低下することの病態的意義と、それを改善する手段としてのリバスチグミンの薬理作用の解析と位置付けた研究を行う。リバスチグミンは、BuChE阻害作用を有するという薬理学的特徴を持ち、臨床におけるリバスチグミンの効果の一部に関与していると考えられる。現在、BuChE選択的阻害薬を用いた検討を行っており、BuChE選択的阻害薬がリバスチグミンと同程度の、少ないACh量増加でPPI障害改善作用を示すことを確認している。このことから、BuChE選択的阻害薬もリバスチグミンと同様にM1受容体の感受性を亢進する可能性が考えられる。そこで、BuChE選択的阻害薬を用いて、BuChE阻害作用のM1受容体感受性に対する作用を検討する。
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