リチウムイオン二次電池用正極材料に使用する粉体の構造としては、ナノ粒子を一次粒子とする多孔質造粒体が適していると考えられる。このような構造の正極粉体の合成プロセスに機械的手法を適用することによって、合成プロセスの省エネルギー化や簡便化が期待される。さらに、本手法を確立することにより、非酸化物系正極材料の短時間合成への応用も期待される。そこで平成27年度はその第一歩として、酸化物系正極材料を対象とし、摩砕式ミルと呼ばれる粉砕機を用いた機械的手法による粒子合成において合成粒子の粉体特性が電池特性に及ぼす影響を系統的に調査した。 合成対象としてコバルト酸リチウムを選定し、処理時間やカーボン添加が電池特性に及ぼす影響について調査を行った。その結果、処理時間の延長やカーボン添加によって、初回放電容量が向上した。さらに、合成された粉体に対して短時間の熱処理を行い、熱処理温度が粉体特性および電池性に及ぼす影響を調査した。その結果、造粒体構造は維持されたものの、熱処理温度が高いほど一次粒子径が増大し、電池特性に影響を及ぼすことを見出した。 また、本手法を全固体リチウムイオン二次電池用正極粉体の作製へ応用することを目的として、コバルト酸リチウム/固体電解質ナノ粒子複合造粒体の作製を試みた。固体電解質としてLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3(LATP)を用いた。機械的複合化処理を行った結果、LiCoO2とLATPのナノ粒子同士が均質に分散した複合造粒体を得ることに成功した。また、全固体電池の評価を行った結果、コバルト酸リチウム/LATP複合造粒体を用いた場合には、全固体電池として作動した。 以上の結果から、摩砕式ミルを用いた機械的手法による粉体合成プロセスが、コバルト酸リチウムをはじめとする様々な複合ナノ粒子の作製に適用可能であることが明らかとなった。
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