研究実績の概要 |
本研究の目的は、日中同形語および日韓同形語に関して、言語間での語彙的統語情報のずれによる制御困難が生じるかをテスト調査および実験で検討することによって、言語間同形語の語彙的統語情報の処理における非選択的な活性化という現象がどこまで適用されるかを明らかにすることである。 それを踏まえて、平成27年度は日韓中二字漢字語の品詞に関するデータベースを改善し、日中同形語の語彙的統語情報の習得に関するテスト調査を行い、その成果を論文としてまとめた。さらに、日中同形同義語の受動態の処理について論文を執筆して投稿した。 データベース(朴・熊・玉岡, 2014)の改善については、『中日漢語対比辞典』(張, 1987)および『中国語と対応する漢語』(文化庁, 1978)に記載されている漢字語の意味分類を加えた。データベースの改善版は、ウェブ上で公開されている(于・熊・早川・玉岡, 2015; 于・玉岡, 2015)。 日中同形語の語彙的統語情報の習得に関しては、中国大連のある大学で日本語を専攻する165名の大学生を対象にテスト調査を実施した。この研究は、これまで明確にされていなかった習熟度の異なる中国人日本語学習者による5つのタイプの日中同形同義語の品詞の習得状況、学習者の語彙および文法知識と品詞習得との因果関係を、テスト調査で検証した。 日中同形同義語の受動態の処理についての論文は、日中両言語における受動態の使用頻度を基準とし、日中同形同義の漢語動詞の処理におけるL1からL2への統語情報の影響を実証した。この研究は、L1の中国語の受動態の使用頻度がL2の日本語の動詞句の処理に強く影響することを示し、バイリンガルの語彙処理モデルの構築にレンマレベルの処理も加えて検討する必要性を示唆した。
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