研究課題/領域番号 |
15J03663
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
齊藤 希 九州大学, 人文科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 土器編年 / 地域間交流 / 長城地帯 / 先周・西周文化 / 鬲 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国初期王朝期における長城地帯から中原地域への文化要素の伝播と受容の動きを考古学的に実証し、その背景にある集団動態を復元することを目的とするものである。この「北方的要素」としては主に土器を分析対象とし、当該年度は、研究遂行上の基礎となる土器のデータベース作成、および中国各地における実地調査を行った。実地調査としては、2015年4月から7月にかけて、北京大学考古文博学院・山西省考古研究所・陝西省考古研究院・内蒙古文物考古研究所・甘粛省文物考古研究所・河南省考古研究院などの各機関において、新石器末期から西周早期に相当する遺跡出土土器を観察・撮影・スケッチなどの方法で実見調査した。また、山西省博物院や甘粛省博物院、鄂尓多斯市博物館などの各地の博物館において、関連時期の土器や青銅器の展示を参観した。加えて、9月には陝西省北部や山西省南部の遺跡と出土資料を実見するために渡航した。これらの調査により、報告書から得られる土器の寸法や出土遺構といったデータに加えて、胎土や色調、器面調整に関する情報を入手することができた。また、各地で当該時期の遺跡を見学し、立地や周辺環境を確認したことで、当時の集団の交流・移動ルートの推定をより実態に近づけることが可能となった。これらの調査成果を踏まえ、本年度は甘粛・青海東部から陝西北部、山西北部、および内蒙古中南部の地域を中心として土器の分類・編年研究を行い、次年度以降の研究に必要な時間軸の構築を行った。さらに、商代併行期における陝晋黄土高原と関中平原、および甘青地区の地域間関係についての検討と仮説の提示を行った。研究成果は、九州史学会・日本中国考古学大会において口頭発表を行い、様々な方からの御教示を得ることができた。次年度以降は、構築した土器編年をより綿密なものとしつつ、仮説としている交流関係について青銅器や墓葬などからも検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の主な実施項目であった中国各地での実地調査が、訪問先に一部変更はあったものの、予定していた以上に多くの機関で行うことができた。 研究計画の段階では、はじめに解明事項①の先商・商文化に関連する河南省、河北省、山西省の地域の実見調査と遺跡踏査を優先的に行い、それらの成果をもとにまずは当該時期・地域の土器編年研究を遂行する予定であった。しかしながら一年目は河北省をはじめとした諸機関とのコネクションを得る機会が遅れたこと、各機関での報告書作成業務の都合上、今年度に実見できる資料がそれほど多くなかったことにより、商文化関連資料の実見調査は十分にはできる環境になかった。その一方で内蒙古自治区や甘粛省、陝西省においては調査の機会に比較的恵まれた。以上のような状況を考慮して、本年度は解明事項②である先周・西周文化に関しての分析を主に遂行した。 具体的には、報告書および実見調査で得られた土器の情報からデータベースを作成し、それらを基にまずは土器の分類・編年を行い、基礎となる時間軸を構築した。そのうえで、分布の状況を検討し、商代併行期を中心とする関中平原、甘青地区、陝晋黄土高原の地域における土器の系譜関係と時期的な分布の変遷を検討した。この過程で、特に従来地域毎の分散的な研究に偏っていた土器研究を、広域的視点から系譜関係を整理し、陝晋黄土高原から関中平原への広域での土器の伝播、変容の過程と、それの背景にある集団動態を明らかにすることができた。また、実地調査の成果を踏まえた分析結果を2つの学会において発表し、さらには他の研究会やシンポジウムへ参加し、関連遺跡の最新の発掘状況や研究成果を学ぶことができた。これらの場で諸氏の御教示を得られたことは今後の研究推進のためにも非常に有意義であった。
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今後の研究の推進方策 |
解明事項①先商・商文化と②先周・西周文化にわけて推進方策を以下に述べる。 ②に関しては、まず27年度に口頭発表した研究成果を改良し、28年度中に論文にまとめ国内雑誌に投稿する。また、夏季には陝西省考古研究院において李家崖遺跡出土資料等の実見調査を行う。さらに、現時点では陝西省考古研究院の研究者からの紹介で8月中旬に陝西省楡林市で開催される商周時期長城地帯に関する研究会への参加を予定している。そのような場で最新の発掘状況の情報を得るとともに、当該時期の研究者の方々と学術的な交流を行いたいと考えている。これらの資料調査を行う一方で、年間を通して土器以外の物質文化(青銅器、墓地等)の分析を行い、土器から復元できた土器動態とそれらの比較を通して、より実証的に集団動態の復元を行う。 ①に関しては、まずは先商・商文化に関する資料収集とデータベースの作成を主に進行する。夏季から秋季にかけて中国へ渡航し、資料の実見調査を行う。山西省省内出土資料に関しては、27年度までの研究の中でおおよそ分類・編年をまとめているため、特に河北省、河南省省内の地域出土資料を分析の主な対象とする。現時点での計画では、6月~10月の間で、河北省文物考古研究所と河北省博物院、天津博物館、赤峰博物館へ資料調査に赴く予定である。 さらに、28年度は世界考古学会議の開催も含め、国内外における学会発表を予定している。
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