研究課題/領域番号 |
15J03785
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 一 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / シリコン / ナノワイヤ / キャリア輸送 / 準バリスティック / MOSFET |
研究実績の概要 |
半導体ナノワイヤMOSFETは,短チャネル効果を効果的に抑制可能で,さらにシリコン(Si)より高いキャリア移動度を持つゲルマニウム(Ge)等をチャネル材料として用いることで,次世代の高性能デバイスを実現できると期待される.そこで本研究では,ナノワイヤにおけるキャリア輸送の物理を解明し,学理に基づいたデバイス設計指針を提示することを目指している. 2016年度は,まず,ボルツマン輸送方程式を用い,有限長さのナノワイヤの途中に一定電界が印加された状態での各場所における分布関数を計算し,GeナノワイヤとSiナノワイヤの準バリスティック正孔輸送を比較した.その結果,注入される電流に対する実際に流れた電流の割合(透過確率)は,移動度の高いGeナノワイヤと移動度の低いSiナノワイヤで同程度となった.この理由を正孔のエネルギー緩和過程に基づいて考察し,Geナノワイヤにおけるエネルギー緩和の遅さにより,後方散乱の影響が増大し,移動度の高さを相殺していることを見出した. また,微細な素子で重要となるトンネル効果等の量子効果を考慮するため,量子補正をポテンシャルの変化として考慮する量子補正ボルツマン輸送方程式による計算も行った.量子補正を表現する新たな表式を提案し,これによりGe・SiナノワイヤpMOSFETにおけるキャリア輸送を計算した.ゲート長が10 nmの場合,GeナノワイヤpMOSFETの方がSiナノワイヤpMOSFETよりトンネルによるリーク電流は大きいものの,これを抑えるためにゲート電圧の基準値(閾値)をシフトしても,Geの方がより大きなオン電流を示した.この場合にも,透過確率はGeとSiで同程度で,Geの大きなオン電流の理由は,注入される電流の大きさに由来すると言えた.さらに,ゲート長やナノワイヤの断面形状を変化させた場合の計算も行い,高性能デバイスの設計指針を提示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,ナノワイヤにおける準バリスティックキャリア輸送の計算プログラムを作成し,ゲルマニウムおよびシリコンのナノワイヤにおける準バリスティック正孔輸送の計算を行った.この結果を考察し,ゲルマニウムの移動度の高さがエネルギー緩和の遅さで相殺されるという知見を得た.理論の拡張という面でも,当初計画の方針とは異なるものの,量子効果を量子補正として取り込む量子補正ボルツマン輸送方程式の新たな定式化を行うことができた.これを用いてゲルマニウムナノワイヤpMOSFETとシリコンナノワイヤpMOSFETの特性比較を行って,高性能なナノワイヤpMOSFETの設計指針を示すことができた.以上のことから,「おおむね順調に進展している」と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
ナノワイヤにおけるキャリア輸送に関する研究としては,物理の理解に基づきデバイス設計指針を提示するという目標を一通り達成することができた.そこで,今後は,ナノワイヤにおけるキャリア輸送に関する研究と並行して,バルクやMOS界面といった異なる系におけるキャリア輸送に対する研究も進める予定である.
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