研究実績の概要 |
本年度の研究は、自身の以前の研究(Kaneko & Murakami (2011))を軸として明るさ・色以外の同時対比の時空間特性を調べることを中心とした。前半は主に空間周波数知覚に関する空間錯視2つの相互作用を調べた研究を行った。同時対比は空間周波数次元でも起こり、同一の正弦波縞でも周辺縞が細いと太く、太いと細く見えることが知られている(Klein et al., 1974:以下、錯視1)。また、関連した錯視として正弦波縞が高速で位相反転すると実際よりも細く見えるという現象も知られている(Virsu et al., 1974等:以下、錯視2)。しかしこれらの現象の発生メカニズムについては研究が進んでいない。本研究ではこの2つの現象を組み合わせることで、視覚情報処理過程の中での両現象発生メカニズムの相対的順序を明らかにすることを目的とした。実験の結果は、錯視2がまず発生し、その後錯視1が生じるという相対的な処理順序であることを示唆するものであった。 後半はKaneko & Murakami (2011)で得られた明るさ色同時対比の時間特性が他の同時対比効果にも共通して見られることを傾き対比、色相対比効果を用いた研究で示した。傾き対比とは刺激の傾きが周囲の傾きの反対方向に偏って見える現象のことを指す。先行研究は刺激呈示時間により傾き対比の効果が変わることを示しているが、その変化の有り様についての結果は一致していない(Wenderoth & Johnstone, 1988等)。本研究では傾き対比に対する呈示時間の効果、周辺刺激・テスト刺激間の傾き差の効果について検討した。実験結果は、呈示時間が短い条件での傾き対比錯視量が、傾き差によらず呈示時間が長い条件での錯視量の2.5倍になることを示した。また色相対比効果でも同様に呈示時間が錯視量に強い影響を与えることが実験において示された。
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