研究実績の概要 |
本年度は、ヒト脳内で色相(赤、緑など)の情報がどのように表現されているかを探る研究を中心に行った。主にサルを使った生理学的研究から、皮質には限られた色相にのみ選択的に応答する神経細胞が存在すると考えられてきたが、その存在をヒト対象の研究で直接的に示したのはKuriki et al.(2015)が初めてであった。Kuriki et al.(2015)はfMRIを用いていたが、この研究を拡張する目的で、本年度の研究では定常視覚誘発電位(SSVEP)を用いてヒト脳での色相選択的神経活動を測定することを試みた。本年度の研究ではSSVEPによって色相選択的な神経活動が高い信頼性で測定できることが確認できた。この研究結果は2018年1月の国内学会で発表され、5月の国際学会で発表することが決定している。並行して、心理物理学的に得られた知覚データの個人差解析によって仮説検証を行う新しいデータ解析も行った。過去の研究で得られたデータ(Kaneko & Murakami, 2012)では参加者全体の平均から議論を行っていたが、今回の解析では各参加者のデータのばらつきと条件間での相関パターンに着目し、仮説検証型の因子分析を行った。このような因子分析は近年視覚研究において再注目されている。再解析の結果は、2012年の論文において提案された「同時対比においては刺激呈示時間によって異なるメカニズムが働く」というモデルを支持するものであった。加えて当初想定していたよりも細分化されたメカニズムの存在が示唆され、再解析によって新たな知見を得ることができた。この結果は2017年8月の国際学会、12月の国内学会で発表され、現在論文投稿中である。SSVEPの研究はAndersen上級講師(英国、アバディーン大学)、個人差解析の研究はPeterzell教授(米国、ジョン・F・ケネディ大学)との国際共同研究である。
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