研究課題/領域番号 |
15J03861
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
角谷 美和 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | コウモリ / 超音波センシング / 野外計測 / 音響的視野 / ソナー入力特性 / 超音波バイノーラルエコー / ヒューマンエコーロケーション |
研究実績の概要 |
昨年度構築したコウモリが野外において2匹の獲物にアプローチする際の飛行方向とパルス放射方向のダイナミクスを記述した数理モデルに基づいて,実データを用いたパラメータ推定と数値シミュレーションを行ったところ,両者の分布が一致しない箇所が見つかった.そこで,実データと数理モデルの整合性を検討するために,今年度は野外計測データ解析に立ち戻り,野外におけるコウモリの飛行と超音波センシングの協調的制御について詳細に解析と分析を繰り返した.その結果,コウモリが音響的視野を利用し,複数の獲物に対して超音波で“先読み”するセンシングを行うことがわかった.さらに,コウモリが水平面および垂直面において異なるセンシングおよび飛行計画を行っている可能性も示唆された.本研究成果は,2017 年1 月にPLOS ONEにて論文として公開した. 現在,本研究では,野外計測および数理モデリングの双方の観点において,コウモリのソナーにおける出力特性(飛行方向,パルス放射方向)について検討を行っており,入力特性(エコー聴取)については全く検討できていない.そこで今年度は,ソナーの出力特性に加えて入力特性についても検討するために,世界を“音で見る”とはいったいどのような感覚なのかという根本的な疑問を,ヒトを用いた音響心理実験を通して明らかにしようと考えた.そこで,コウモリの超音波帯域でのエコーロケーションをより臨場感を持たせてヒトに体験させるために,超音波バイノーラルエコーを用いた音響心理実験システムを確立した.さらに,当該システムに基づいて,材質や表面構造が異なる物体や物体のエッジ形状を弁別させる音響心理実験を実施し,手かがりとなるエコーの音響特徴量やセンシングに効果的な送信信号やパルス放射時間間隔についてコウモリの野外計測で得られた知見と比較することで明らかにした.当該研究成果は,国内外の学会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は,昨年度に構築したコウモリの飛行方向およびパルス放射方向のダイナミクスを表現した数理モデルに基づいて,数値シミュレーションを行う予定であったが,数理モデルと実際のコウモリの整合性を再度見直す必要があると考え,当初の計画を調整した.具体的には,野外計測のデータ解析を通して,コウモリの飛行と音響的視野の協調的制御について検討した.当該研究成果は,米オンライン科学誌(PLOS ONE)にて論文として公開できた.また,筆頭著者ではないものの,4月には既に本研究と関連する研究成果を米国科学アカデミー紀要(PNAS)にて発表しており,今年度はこれまでの研究成果を合計2本の論文にまとめることができた.さらに,コウモリのソナーの入力特性の効果についても検討するために,ヒトを対象とした音響心理実験を実施した.当該研究成果は,国内外の学会発表にて公開した.これより,当初の研究計画の微調整はあったものの,当該研究課題は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,コウモリの野外計測データやヒトを用いた音響心理実験より得られた知見に基づいて数理モデルの改良を行い,数値シミュレーションの結果とコウモリの実データを用いたパラメータ推定の結果を比較することにより,コウモリの飛行と超音波センシングの相互関係について検討する.当該研究成果を論文としてまとめることを目標に解析を進める.さらに,ヒトを用いた音響心理実験を通して得られた研究成果は,国際学会にて発表し,論文としてまとめて今年度中に投稿する.
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