研究課題/領域番号 |
15J03873
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉村 和幸 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 超巨大ブラックホール / 星形成 |
研究実績の概要 |
本年度の研究により、超巨大ブラックホールの起源の解明につながるいくつかの成果を得ることができた。 まず、初代星起源の種ブラックホールがガス降着によって超巨大ブラックホールまで進化するシナリオに関連する研究を進めた。種ブラックホールへのガス降着率を求める際に、ブラックホール近傍からの輻射が、円盤風などの外側の構造により遮蔽されることで生じる輻射の非等方性がこれまでの研究で無視されていたため、本研究ではそのことを考慮した。二次元輻射流体計算の結果、非等方性を考慮することで高い降着率が実現することが明らかになった。ビッグバン後10億年(赤方偏移z~7)の宇宙にすでに超巨大ブラックホールが見つかっているため、本研究により、初代星起源の種ブラックホールが短時間で超巨大ブラックホールまで進化できる可能性が明らかになったことは大きな意味を持つ。 次に、星形成過程に関連する研究を進めた。星形成は、フィラメント状ガス雲が分裂し、分裂片が重力収縮してその中に星が生まれることで進むと考えられている。本研究では、分裂片が重力収縮進化する中で歪みが増幅されて再分裂するかについて、三次元自己重力流体計算を用いて調べた。先行研究の安定性解析によって、重力収縮進化中の分裂片は棒状に歪む不安定性を持つことが知られていたが、本研究の結果、通常考えられるような現在の星形成過程においては再分裂につながるほどの歪みは生じにくいことがわかった。また、超巨大ブラックホールの種天体候補である超大質量星の形成に関連して、乱流が弱い場合には始原ガス雲が分裂してその中で形成する星の質量が下がってしまい、超大質量星が形成しない可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、初期宇宙での超巨大ブラックホール形成の標準シナリオの確立に向けて、いくつか重要な成果を得ることができた。 まず、初代星起源の種ブラックホールが超巨大ブラックホールまで進化するというシナリオに関して、大きなインパクトのある結果を得ることができた。初期宇宙で超巨大ブラックホールが観測されている時期(ビッグバンから10億年後)までに初代星起源の種ブラックホールから超巨大ブラックホールまでガス降着進化できるかという問題があり、これまでは種ブラックホールへのガス降着率が輻射フィードバックにより抑制されるため、初代星起源シナリオは困難であると考えられていた。しかし、ブラックホール近傍からの輻射が円盤風などの外側の構造により遮蔽されることで生じる輻射の非等方性を考慮することで、高いガス降着率が可能であり、上記問題も解決可能であることを示すことができた。シナリオを否定するこれまでの根拠が覆された結果、初代星シナリオは有力なシナリオとなったと言える。 また、超大質量星起源の種ブラックホールが超巨大ブラックホールまで進化するというシナリオに関しても、新たな知見を得ることができた。星形成の際に、フィラメント状ガス雲が分裂してその分裂片が重力収縮する段階があると考えられているが、分裂片が重力収縮中に歪んで再分裂する条件について明らかにした。その結果、再分裂を抑制して始原ガス雲から単一の超大質量星を形成するために乱流の効果が重要となることがわかった。 本年度までの研究で、初期宇宙での超巨大ブラックホール形成における各過程の理解は着実に進んでいる。しかし、標準シナリオの確立という点からは、まだ解決しなければならない問題が多く残っており、上記区分の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
初期宇宙での超巨大ブラックホール形成の標準シナリオの確立に向けて、本年度までの研究で先行研究から着実に進んでいると言える。しかし、本年度までの研究には、まだ目に見えて改善すべき点があり、まずそれらを解決する。 本年度の研究により、種ブラックホールへのガス降着率について、輻射の非等方性を考慮することで高い降着率が実現することが明らかになった。しかし、その他の先行研究も含めて、ガスの角運動量が考慮されていないため、実際には遠心力の効果によって降着率が下がる可能性があるという問題がある。初代星起源の種ブラックホールが超巨大ブラックホールまで進化するというシナリオの実現可能性を議論する上で、種ブラックホールへのガス降着率は非常に重要な要素であり、ガスの角運動量も考慮して正しい値を得ることが重要になる。 また、超巨大ブラックホールの種天体候補である超大質量星の形成に関連して、本年度の研究により、乱流が弱い場合には始原ガス雲が分裂して形成する星の質量が下がってしまう可能性が示唆されている。そこで、実際、どの程度の乱流があれば始原ガス雲が分裂せずに収縮して超大質量星ができるかについて、系統的に乱流強度やガス雲の質量などを変えて調べ、物理的な理解を確立することが重要となる。 初代星と超大質量星のどちらが超巨大ブラックホールの種天体であるかは、今後研究を進めていく中で明らかになっていくと考えられる。宇宙論的シミュレーション等を用いて、初期宇宙での超巨大ブラックホール形成を一貫して再現することは最終的に重要になると思われるが、まだ各過程の理解で不十分な点が多数あり、先にそれらを解決し、一つずつ理解を積み重ねて初期宇宙での超巨大ブラックホール形成の標準シナリオを確立していこうと考えている。
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