研究実績の概要 |
本研究は自己注目の2側面と適応的自己理解に着目して,抑うつの増強・低減プロセスを明らかにし,最終的に新しい抑うつ低減プログラムを提案することを目的としている。 自己注目は,心理的適応に不適応的な影響を与える反芻と適応的な影響を与える省察の2つに分類されている。自己理解の適応性を測る指標には,主観的自己理解,自他一貫性,自己複雑性の3つを使用している。 本年度の研究ではまず,自己注目の2側面と自己理解の3つの適応的指標それぞれとの関連を横断調査によって検討した。不適応的な自己注目である反芻は自己理解の適応的指標と負の関連があり,適応的な自己注目である省察は正の関連があると予測した。調査の結果,まず主観的自己理解との検討では,反芻は低い主観的自己理解と関連し,省察は高い主観的自己理解と関連することが示された。自他一貫性との関連を検討した結果では,反芻は低い自他一貫性と関連することが示されたが,省察と自他一貫性には有意な関連は示されなかった。最後に自己複雑性との関連を検討した結果では,省察は肯定的な側面での自己複雑性と関連し,反芻は否定的な側面での自己複雑性と関連することが示された。以上の結果から反芻は不適応的な自己理解と関連し,省察は適応的な自己理解と関連するという予測が概ね支持された。 次に,自己理解の向上を介した抑うつ低減プロセスを更に詳しく明らかにするため,抑うつに対する自己理解の適応指標同士の交互作用を横断的に検討した。その結果,主観的自己理解が高い場合には自己複雑性は低い抑うつと関連するが,主観的自己理解が低い場合には自己複雑性と抑うつに関連は示されなかった。この結果から,抑うつの低減に向けた自己理解の向上では,1つの側面からだけではなく多面的な側面からアプローチすることが必要であることが示唆された。
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