研究実績の概要 |
本年度は、表面吸着分子系からのSTM発光を定量解析できる理論手法を開発するため、(1) Maxwell方程式に基づく「電磁場解析の手法」、(2) 密度汎関数理論に基づく第一原理計算「DFT計算」、(3) 多体量子論に基づく計算手法「非平衡Green関数法」に基づく理論研究を推進した。(1)電磁場解析の手法を用いた理論研究では、探針/真空/基板の界面近傍に局在する界面プラズモンの光学特性を調べた成果をレビュー論文に報告した。(2)DFT計算を用いた理論研究では、金属表面上に蒸着した数原子層の絶縁体薄膜の上に、有機分子が吸着した系の構造特性および電子特性の解明を目的に研究を推進した:(2-1)NaClの1, 2, 3, 4原子層の超薄膜が蒸着されたAu(111)表面について、電子構造および誘電特性を調べた。Au表面上NaCl薄膜、真空に孤立したNaCl薄膜、バルクのNaCl結晶の誘電率をそれぞれ比較したところ、Au上のNaCl薄膜の誘電率はバルク結晶に比べて大きく、free standingのNaCl薄膜の誘電率はバルク結晶に比べて小さいことがわかった。現在、これらの起源を解析中である。(2-2)近年実験で着目している数原子層のNaCl薄膜の表面における、3d遷移金属フタロシアニンの吸着構造を調べた。これらの錯体のNaCl薄膜上の吸着構造の決定には、遷移金属とNaCl薄膜の相互作用および分子のリガンドとNaCl薄膜の相互作用のバランスが大きな役割を果たしていることがわかった。またFePc, CuPc, NiPcの吸着構造を報告した実験結果と比較し、今回得られた知見によりこれらの実験結果を統一的に解釈できた。(3)非平衡Green関数を用いた理論解析では、絶縁薄膜蒸着金属表面上の分子からのSTM発光を想定し、系の光学特性および電気伝導特性を調べる理論を構築した。
|