本年度は、表面吸着分子系からのSTM発光を定量解析できる理論手法を開発するため、(1)場の量子論に基づく計算手法「非平衡Green関数法」、(2)密度汎関数理論に基づく第一原理状態計算「DFT計算」を用いた理論研究を推進した。非平衡Green関数(NEGF)法を用いた理論解析ではまずHubbard NEGF法を用い、電気伝導および電界誘起発光の定式化を行った。先行研究において他の理論手法(量子マスター方程式を用いた手法、非平衡non-crossing近似を用いた手法、分子-金属間結合を厳密に取り扱い分子内相互作用について摂動展開を行なった手法)を使用した解析が報告されている、電気伝導特性について、Hubbard NEGF法を用いた理論シミュレートの結果と比較し、本手法が幅広いパラメータ領域において有効であることを明らかにし、その結果を論文にて報告した。 さらに、理論の定量性を向上させるため、分子の多体状態のエネルギーや振電相互作用の大きさといった理論解析に必要なパラメータ値をDFT計算の結果から抽出し、系の物質依存性を取り入れた。単一分子からのSTM発光の実験研究で用いられている、フタロシアニン分子を対象とし解析を行なった結果、電気伝導特性および光学特性に顕著な励起子効果が現れることを明らかにし、その影響が実験において実証可能であることを解明した。現在、本成果をもとに論文を執筆中である。 また、分子内の電子と正孔からなる励起子と探針/真空/基板の界面近傍に局在するプラズモンとの相互作用を取り入れた理論への拡張、および、フタロシアニン分子の表面吸着構造に関する理論解析などへも研究を発展させ、それらの結果をそれぞれ論文にまとめているところである。
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