研究課題
未分化であり自己増殖能力を有した幹細胞は、さまざまな組織への分化能を有している。この幹細胞は、全身の各種組織に存在が報告されており、歯髄幹細胞もその一つである。幹細胞の中でも、間葉系幹細胞(MSCs)は、各種幹細胞特異的マーカーによって他の細胞とは区別され、再生医療分野において多くの疾患に対する臨床応用が期待されている。歯髄幹細胞はその性質がMSCsに類似し、歯科疾患に対する再生医療やその他全身疾患で応用が期待されている。乳歯歯髄細胞には2%ほどの幹細胞が含まれているとの報告がある。LEF-1は、生物の発生に重要なwnt/β-cateninシグナルにおける転写因子であり、β-cateninを介してwnt標的遺伝子の転写に関わることがわかっている。また、iPS細胞を含めた幹細胞における未分化の維持・増殖に関与することも報告されている。さらに、LEF1遺伝子の欠損したマウスでは歯の発生が早期に停止することが分かっている。 LEF-1は歯の発生の初期の段階で関わることから、歯髄幹細胞を含めた未分化な歯系細胞においてマーカーとなるのではと考え本研究においてプロモーターとして採用することとした。本研究では、LEF-1プロモーターを配したプラスミドベクターとして、遺伝子導入の効率が高いとされるpiggyBac(PB)トランスポゾン系を採用した。ヒトLEF-1 プロモーター + EGFP cDNA + 抗生物質耐性遺伝子(Neomycin)を挿入したプラスミドpTA-LENを作製した。pTA-LENを乳歯歯髄細胞へ遺伝子導入行い、薬剤選択およびEGFP発現を指標とし、LEF-1発現細胞を取得し、幹細胞としての可能性について検討することを目的とした。
2: おおむね順調に進展している
乳歯歯髄細胞へLEF-1プロモーターを配したプラスミドの遺伝子導入実験を行ってきたが、遺伝子導入効率が悪く、十分な結果が得られていなかった。そのため、哺乳類細胞への遺伝子導入効率が高いとされる。piggyBacトランスポゾンベクター用い同実験を修正したところ、遺伝子導入効率が得られ、薬剤耐性を持ったLEF-1陽性乳歯歯髄細胞の単離が可能となった。単離された細胞は、代表的な幹細胞マーカーの発現を認めた。また、in vitroにて分化誘導実験を行ったところ、骨系細胞への分化能および神経系細胞への分化能を有していた。本研究において、乳歯歯髄細胞にLEF-1プロモーターが機能し EGFPの発現を示す細胞を取得することができた。さらに、得られた細胞は乳歯歯髄幹細胞様細胞である可能性が示唆された。ただし、乳歯歯髄細胞におけるLEF-1の発現については、依然不明な点も多く、LEF-1陽性細胞の詳細な解析が必要と考える。
乳歯歯髄細胞よりLEF-1プロモーターを用いてLEF-1陽性細胞の単離が可能となったことから、今後は、乳歯歯髄由来iPS細胞へpTA-LENを遺伝子導入し、分化誘導行うことでLEF-1陽性細胞の単離実験を予定している。当研究室では、ヒト乳歯歯髄細胞よりiPS細胞を樹立し、iPS細胞の樹立効率についての研究を行っている。そこで、未分化なiPS細胞へこれまで用いてきたLEF-1プロモーターを配したpTA-LENプラスミドを遺伝子導入し、薬剤選択を行いLEF-1陽性細胞の単離を行う。iPS細胞の培養にはフィーダー細胞と呼ばれる足場となる細胞が必要となることから、薬性選択の際には、薬剤耐性のフィーダー細胞を用いる必要がある。我々の研究室では、iPS細胞に用いるフィーダー細胞の研究も同時に行っており、ヒト乳歯歯髄細胞由来iPS細胞の薬剤選択において、適した薬剤耐性フィーダー細胞を検討しながら研究を進めていく必要がある。乳歯歯髄細胞由来iPS細胞よりLEF-1陽性細胞を単離が可能となれば、乳歯歯髄細胞より単離したLEF-1陽性細胞と比較するとともに、多分化能および幹細胞マーカーの発現を確認する。これまでに、乳歯歯髄細胞由来iPS細胞よりプロモーターを用いてこのような幹細胞を単離した報告は散見されないため、乳歯歯髄幹細胞研究の発展に繋がる可能性がある。
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