研究課題
老化時にも葉の緑色が保たれる突然変異体はstay-green突然変異体と呼ばれる。stay-green形質の研究は葉の老化メカニズムの研究に有用なだけでなく、葉菜類の品質保持や光合成能の維持によるバイオマス増大など多くの有用な特性に結びつく可能性がある。前年度はポジショナルクローニングにより、dcd1(delayed chlorophyll degradation 1)の原因遺伝子は光化学系Ⅰのアンテナタンパク質(LHCⅠ)のサブユニットの一つLhca4をコードすることを証明した。本年度はdcd1の表現型をより詳細に解析した。dcd1は自然老化時にstay-green表現型を示すが、この時、葉の機能が維持されるかを調べた。炭酸固定能、RubisCOの蓄積量及び老化誘導性遺伝子の経時的な変化を調べたところ、何れのパラメーターも野生型とdcd1で差がなく老化が誘導された。つまり、dcd1は老化時に見かけ上緑色を保つが、葉の機能低下は生じるnon-functional型であると考えられた。dcd1の原因遺伝子が光化学系Ⅰのアンテナタンパク質であることから、その欠損が光化学系の構造に影響を与えている可能性が考えられた。BN-PAGEにより光化学系の構成変化を調べたところdcd1は光化学系ⅠとLHCⅠの複合体のバンドが消失し、低分子側に野生型には見られない2つのバンドが現れた。二次元電気泳動により解析したところ、高分子側のバンドは光化学系Ⅰ-LHCⅠ複合体からLhca4がはずれたもの、低分子側のバンドは光化学系Ⅰのコアタンパク質であることが考えられた。BN-PAGEの結果はLhca4の欠損が光化学系の構成変化に影響を与えていることを示しており、これがdcd1がstay-greenになる原因である可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
dcd1のstay-green表現型の詳細は分かっていなかった。本年度は光合成能の測定やリアルタイムPCRを用いた発現解析によりdcd1のstay-greenメカニズムについて明らかにすることができた。これらの成果は国内学会にて発表を行ったため、おおむね順調に進展していると判断した。
光化学系Ⅰのアンテナタンパク質LHCⅠはLhca1~4の4つのサブユニットから構成される。dcd1のstay green表現型を示す原因はLhca4の欠損により特異的に生じる現象であるか、あるいはLHCⅠの機能不全により生じる現象であるかという2つの仮説が考えられる。この仮説を調べるために他のLHC1サブユニットであるlhca1~3の突然変異体をCRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により作成し、自然老化時の表現型の観察を行う。
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The Plant Physiology
巻: 173 ページ: 2138-2147
10.1104/pp.16.01589.