研究課題/領域番号 |
15J03947
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
猪狩 良介 慶應義塾大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | マーケティング・サイエンス / 計量経済学 / ベイズ統計学 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、マクロデータとミクロデータという、データの集計単位がまったく異なるデータを同時解析するモデルを開発した。ミクロデータは、様々な理由からバイアスのある不完全データであることが多く、ミクロデータのみを用いた解析から得られた結果はバイアスがあることが多い。そこで、バイアスのあるミクロデータを基本モデルとして解析し、その推定時にマクロデータを補助活用する新しいモデルを開発した。この方法は、データの集計レベルが異なる統計的データ融合、または経済学分野におけるData Combinationと呼ばれる方法の一つとして位置づけることが出来る。具体的には、偏りのあるパネルデータに対する一般化線形混合モデルと、ミクロデータに中間欠測のある状況の継続時間モデルを開発した。これらの方法を統一的に扱うため、欠測データ解析の方法と潜在変数を導入した新しい準ベイズ法を開発し、マクロデータの情報をモーメント制約として融合させることで、不完全なミクロデータを用いた解析においても、本来求めるべきパラメータを推定することが可能であることを示した。成果は2本の論文としてまとめ、すでにいずれも海外誌に投稿済みである。 一方で、シングルソースデータを用いたマルチチャネルにおける消費者の購買行動モデル、具体的には、マルチチャネルにおける購買間隔を捉えるための、複数チャネルの構造を盛り込んだ競合リスクモデルの2つのモデルを開発した。一つは、潜在クラスモデルによって離散的な異質性を競合リスクモデルに組み込んだモデル、もう一つは連続的な異質性とその動的変化を時系列モデルによって捉え、これらを競合リスクモデルに導入したモデルである。これらの研究成果は、一つはすでに査読付の和文誌に掲載済みである。もう一つについても、現在論文を執筆中であり、5月初旬に査読付の海外誌に投稿予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は大規模なマルチレベル・マルチソースデータを扱うための統計モデルとして、不完全なミクロデータに対してマクロ情報を補助的に活用した準ベイズ法の方法論を確立したという点で、予定通り進捗していると考えられる。具体的には、欠測データ解析の方法と潜在変数を導入した新しい準ベイズ法を開発し、マクロデータの情報をモーメント制約として融合させることで、不完全なミクロデータを用いた解析においても、本来求めるべきパラメータを推定することが可能であることを示した。開発したモデルを、一般化線形混合モデルと継続時間分析に応用することで、モデルの有用性を示した。これらのモデルは統計科学分野のみならず、社会科学・自然科学などの幅広い分野に応用可能であり、今回開発したモデルは様々な研究分野への貢献が期待できる。成果は統計関連学会連合大会で報告し、2本の論文としてまとめた。いずれの論文も既に投稿済みである。このように、潜在変数モデルと欠測データ解析の手法を用いて大規模なマルチレベル・マルチソース状況下のモデルを開発するという、当初の計画通りのモデルを開発することができた。 また、昨年に引き続き、シングルソースで得られているミクロデータを用いたマルチチャネルにおける消費者の購買行動モデルを並行して研究した。具体的には、マルチチャネルにおける購買間隔を捉えるための、複数チャネルの構造を盛り込んだ競合リスクモデルの2つのモデルを開発した。一つは、潜在クラスモデルによって離散的な異質性を競合リスクモデルに組み込んだモデル、もう一つは連続的な異質性とその動的変化を導入したモデルである。研究成果は、一つはすでに査読付論文誌に掲載済みであり、もう一方は投稿準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、これまでに開発した、マクロデータとミクロデータを同時解析するモデルを、マーケティング分野における理論モデルと融合する。具体的には、マーケティング分野で従来使われているモデルに今回開発した新しいモデルを応用することで、より有用な知見を得られることを示す。具体的には、他社購買を把握できない状況下における顧客関係性管理(CRM)のモデルや、一部の店舗からの情報しか得られていない購買履歴データに対する、マーケットシェアをマクロ情報として考慮した消費者のブランド選択モデル、これまでは分離されて行われてきた時系列解析と個人データを用いた広告効果モデル等に応用する予定である。これまでに開発してきたモデルをこれらのマーケティングモデルに拡張し、さらには大規模データに対応した推定アルゴリズム開発を行う予定である。 また、引き続きマルチチャネルの購買行動データを用いた消費者行動モデル開発も並行して行う。特に今年度は、シングルソースデータを活用したモデルだけでなく、マルチソースデータを活用したモデルに拡張することで、メインテーマとの融合を行う。具体的には、限定されたチャネルの購買履歴しか得られない状況下において、マクロ情報を補助的に用いることで、他のチャネルの情報をモデルに組み込むことが可能になり、データがシングルソースデータとして得られていない状況下においてもマルチチャネル戦略を策定する上で有用な結果が得られると考えられる。 上記の2つの研究群について、モデル・推定アルゴリズム開発、データ解析を実施し、結果を論文としてまとめる。さらに、国内外の統計学・マーケティング関連の学会で報告をする予定である。
|