研究課題/領域番号 |
15J03952
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山口 英美 岩手大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | アライグマ / 感染症 / 畜産業 / 景観 |
研究実績の概要 |
畜産農家に侵入する野生動物は家畜と直接的・間接的に接触することで家畜病原体の伝播に関与することが懸念されている。アライグマもその中の一種で、畜産農家を採餌・出産・休息など多目的に利用していることから病原体伝播に関与している可能性は高い。本研究では畜産地帯である北海道十勝地域において、アライグマの病原体感染と家畜疾病の発生に関連があるのかを明らかにし、アライグマが家畜病原体伝播リスクの高い動物種であるのかを検討した。 市町村の有害駆除・防除計画により捕獲されたアライグマを回収し、胃内容物・感染症検査材料を採材した。この検体に加え、過去に収集していた検体も併せてA群ロタウイルスの抗体検出を行い、サルモネラ分離を学内検査センターに依頼した。次に、この検査結果を用いて疾病毎にアライグマの感染状況とアライグマ捕獲地周辺における牛における下痢症例の発生状況および河川などアライグマが病原体に感染する際に影響を与えうる景観要因との関連について統計解析を行い検討した。下痢症例は牛において両疾病の主徴である。その発生状況はJA(日本農業協同組合),NOSAI(農業共済組合連合会)に協力を仰ぎ、対象農家の同意の元、データを収集した。統計解析の結果、牛において下痢症例数の多い場所でアライグマのサルモネラ保有率が高い傾向にあった。 アライグマの胃内容物を分析したところ、家畜飼料が頻繁に検出された。加えて、過去に本地域で実施されたアライグマの足跡調査結果を用いてアライグマの選好性の高い環境を検討したところ、畜産農家密度の高い場所で足跡が発見されやすい傾向があり、畜産農家の存在がアライグマの環境選好性に影響していることが示唆された。 以上の結果から、本地域においてアライグマは頻繁に畜産農家を利用することにより、家畜病原体伝播に影響を及ぼしている可能性の高い動物種であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アライグマ捕獲データを元に相対密度の算出を試みたが、捕獲地点により調査期間に開きがあったため、本研究に用いるデータとして不適と判断された。そのため、アライグマの密度の影響については検討できなかったものの、アライグマの病原体の感染状況、生息実態のいずれもがアライグマの生息地における畜産農家密度や当該疾病の発生状況と関連している結果が得られた。 計画していた手法に一部変更が生じたもののアライグマの病原体感染と生態の両側面からアライグマの病原体感染と家畜疾病発生の関連について検討することができ、概ね順調に進行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
家畜疾病とアライグマのサルモネラ感染に関連があることが疑われる結果が得られたが、統計解析方法にはまだ改良の余地がある。そこで、本年度はすでに収集しているデータを元に解析方法の再検討を行うとともに、逐次成果を学術集会や学術雑誌で発表する。
|