研究課題/領域番号 |
15J03968
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
貝森 功康 東京理科大学, 総合化学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 不斉自己触媒反応 / 不斉の起源 / ホモキラリティー / 有機亜鉛試薬 / キラル結晶 / 不斉合成 / ピリミジルアルカノール / 不斉付加反応 |
研究実績の概要 |
不斉自己触媒反応による結晶中らせん構造の認識 らせん構造には右巻きと左巻きがあり,本質的にキラリティーを有する形状である。アキラル化合物が結晶中においてらせん状に配置することでキラル結晶を形成するが,結晶キラリティーから分子不斉を誘導した例は数少ない。そこで,結晶中でらせん構造を形成するアキラル分子であるtris(2-hydroxyethyl) 1,3,5-benzenetricarboxylate (トリエステル,2004年 東屋ら)とエチレンジアミン(EDA)硫酸塩に着目し,これらのキラル結晶を用いた不斉自己触媒反応を行うことで,結晶中らせん構造と有機化合物の絶対配置の間に相関性が見られるか検討を行った。 トリエステルは攪拌条件下メタノールから結晶化を行うことで,6回らせん軸を有するキラル結晶を得ることができた。トリエステルの結晶キラリティーは固体CDスペクトル測定によって決定した。一方,EDA硫酸塩は水からの蒸発法によって,4回らせん軸を有するキラル結晶を得ることができ,結晶キラリティーは単結晶の旋光性により識別した。これらキラル結晶存在下,ピリミジン-5-カルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛との不斉自己触媒反応を行ったところ,トリエステルを用いたとき空間群P61(右巻き)の結晶からはS体,P65(左巻き)の結晶からはR体の生成物ピリミジルアルカノールが得られることを見出した。一方,EDA硫酸塩結晶を用いたときには,空間群P41212(右巻き)の結晶からはS体,P43212(左巻き)の結晶からはR体のアルカノールが得られることが分かった。さらに,得られたアルカノールを触媒として不斉自己触媒反応を行うことで,99.5% ee以上と,光学的にほぼ純粋なアルカノールを得ることに成功した。 本結果は,結晶中らせん構造より高鏡像体過剰率の有機化合物を効率的に導いた例であり,生命のホモキラリティーの起源として結晶中らせん構造が有効に作用し得ることを示したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度においては,アキラル化合物が形成するキラル結晶を用いた不斉自己触媒反応の研究に取り組んだ。キラル結晶を形成するアキラル化合物として,結晶中でらせん構造を形成するtris(2-hydroxyethyl) 1,3,5-benzenetricarboxylate (トリエステル,2004年 東屋ら)とエチレンジアミン(EDA)硫酸塩に着目し検討を行った。トリエステルとEDA硫酸塩の結晶化条件,および結晶キラリティー識別手法を確立し,これらの結晶を不斉自己触媒反応と組み合わせることで,キラル結晶の不斉認識,および結晶キラリティーを起点とした効率的な不斉合成を達成した。本研究での知見をとりまとめ,国内学会では,モレキュラー・キラリティー2015(東京),CSJ化学フェスタ2015(東京)においてポスター発表,国際学会では,Chirality2015(Boston,USA)とPacifichem2015(Honolulu, Hawaii)において研究成果発表を行い,このうちPacifichem2015ではPoster competition Finalist に選出された(受賞には至らず)。 また,硫酸トリグリシン(TGS)結晶を介した,電場による不斉自己触媒反応のエナンチオ選択性制御の研究も行った。TGS結晶は強誘電性を有していることから,電場の印加によって結晶キラリティーの制御が可能である。電圧印加によってキラリティー制御を行ったTGS結晶存在下,不斉自己触媒反応を行うことで,印加した電圧の方向によって不斉反応のエナンチオ選択性の制御が可能になると考えた。本年度は主に,TGS単結晶の調製条件および電圧印加の最適条件の探索に取り組んだ。TGSの結晶キラリティーと不斉自己触媒反応のエナンチオ選択性の相関性についても検証を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,TGS結晶を介した電場による不斉自己触媒反応のエナンチオ選択性制御についての検討に取り組む。昨年度までに,TGS結晶の調製および電圧印加の最適条件決定を行っており,また複数回の不斉自己触媒反応の結果,TGS結晶のキラリティーと反応生成物であるピリミジルアルカノールの絶対配置の間に相関が見られた。本年度は,より効率的な反応条件確立のため微調整を行っていくと共に,更に実験を行うことで試行回数を増やし,実験再現性を確実なものとしていく予定である。 また,本年度は固相ー気相で不斉自己触媒反応を行う手法によって,自発的絶対不斉合成が可能であるか検証を行う。自発的絶対不斉合成とは,2003年Mislowによって,キラル要因が全く存在しない条件において生じる極めてわずかな不斉の偏りに基づく不斉合成であると定義されたものである。当研究室では以前までに,液相において不斉自己触媒反応を行うことで自発的絶対不斉合成を達成している。本研究では,ピリミジン-5-カルバルデヒドの結晶にジイソプロピル亜鉛を気相で作用させる,固相ー気相による不斉自己触媒反応を行う手法によって,自発的絶対不斉合成が可能であるか試みる。まず,反応基質であるカルバルデヒドの結晶にキラリティーが存在しないことを確認するために,単結晶のX線結晶構造解析を行う。実験手法としては,密閉容器内にカルバルデヒド結晶とジイソプロピル亜鉛溶液を静置することで,カルバルデヒドにジイソプロピル亜鉛を蒸気で作用させ,不斉自己触媒反応を行う。この手法によって複数回の試行を行い,得られるピリミジルアルカノールの絶対配置が,統計的揺らぎに基づく比率で出現するかどうか検証を行っていく予定である。
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