研究課題/領域番号 |
15J04054
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
征矢 晋吾 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | オレキシン / ノルアドレナリン / 扁桃体 / 恐怖記憶 / PTSD / 想起 / 青斑核 / 覚醒 |
研究実績の概要 |
これまでの研究でオレキシン1受容体(OX1R)を介して手がかりおよび文脈依存的な恐怖記憶の形成、想起に関与していることを明らかにし、さらにオレキシン神経が密に投射している青斑核のノルアドレナリン神経はOX1Rを介して手がかり依存的な恐怖記憶の強化、固定に関わることを報告した。しかし、PTSD患者の症状を考慮すると、既に耐えがたい恐怖を経験しているため、いかにその恐怖記憶を想起させないかというが重要となる。したがって、本研究ではOX1Rが非常に多く発現する青斑核のNA神経に焦点をあて、これらが恐怖記憶の想起にどのような役割を果たすのか解析した上で、これらを調節することで過度な恐怖記憶の発現をコントロールできないか検討した。方法としては、OX1R拮抗薬や薬理遺伝学、光遺伝学などの手法を用いて、OX1RおよびNA神経を抑制することで恐怖記憶の想起が減弱するかどうか検討した。さらに、光遺伝学を用いてオレキシン神経、またはNA神経を活性化することによって、恐怖行動が誘導されるかどうかについても検討を行った。OX1Rを抑制することで過度な恐怖の発現を抑えることができれば、PTSD患者を対象としたOX1Rの拮抗薬の開発にも直結する。本研究は、主に睡眠・覚醒の調節に重要だと考えられているオレキシンの神経回路が、特に青斑核のノルアドレナリン神経の調節を介して恐怖記憶の形成、想起にも関与していることを決定づける試みとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画の最初に記載した実験3については、既に実験を終えており、仮設通りオレキシンニューロンの下流の神経核である青斑核のノルアドレナリン神経を光遺伝学を用いて刺激することにより、恐怖記憶を誘導できることを確認した。さらに、上流にあたるオレキシンニューロンを刺激した場合でも同様の効果が得られることを検証した。また、計画段階では準備中であった、ノルアドレナリン神経を光で抑制する実験についても、ノルアドレナリン神経を抑制することで恐怖行動を抑制できることを確かめており、仮設通りの良好な結果が得られている。さらに、トランスシナプス標識法を用いて、扁桃体に投射するノルアドレナリン神経の上流を検討した結果、オレキシンが直接シナプスを形成し調節していることを明らかにした。このことから、恐怖記憶の想起時には、青斑核のノルアドレナリン神経に直接投射するオレキシンニューロンが活性化し、扁桃体に投射するノルアドレナリン神経を調節することで恐怖行動が強化されることが示唆される。また、その調節にはOX1Rが重要な役割を果たしていることが考えられる。以上の結果は既に投稿準備中であり、4月中にインパクトの高い国際誌に投稿予定である。また、この成果は7月の欧州神経科学会において発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、論文の投稿準備を行うとともに新たな実験計画の作成、およびそれに用いるマウスや機材の収集を行っている。既にマウスは購入済みであり、機材が揃い次第実験を遂行することができる。これまでの実験では、オレキシンニューロンとその下流のノルアドレナリン神経に主に焦点を当てていたが、今後はノルアドレナリン神経の投射先である扁桃体の神経についてさらに詳細な解析を行っていく。具体的には、過度な恐怖体験によって扁桃体の神経の可塑性が高まり、恐怖記憶を想起した際に青斑核のノルアドレナリン神経から分泌されたノルアドレナリン神経に対する応答が増大するという仮説を検証するものである。この実験では、新たに電気生理学的な手法を用いることで神経細胞の活動を直接モニターすることができるため、恐怖行動と直接関連のある扁桃体の神経にのみアプローチすることが可能となる。これにより、より詳細かつ精度の高い実験データが得られることが想定される。
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