研究課題/領域番号 |
15J04129
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
渡部 沙織 明治学院大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 難病 / 医療政策 / Rare Diseases / 疾患名モデル / 医 |
研究実績の概要 |
本研究の平成27年度では、「難病対策の原点」とされるスモン対策について、医療専門家(研究医)が研究班を組織してきた過程を分析し、研究班が難病対策に果たしてきた役割を資料分析とインタビューを通じて検討した。資料調査においては入手可能な政府公文書、医学研究班の報告書や医学論文群、旧国立療養所・国立病院の病院が作成した資料群を中心に、電子データ化アーカイブ作業を実施した。インタビュー調査では、難病の医科学研究事業における研究班に研究医として参与した経験がある医師や医療者に、政策の萌芽期について聞き取り調査を行った。当時を知る患者や家族にも試行的調査等を実施した。 また、難病政策の国際比較研究のための一次現地調査を実施した。欧米先進諸国で難病に該当する医療政策であるRare Diseases政策について、欧州や米国の資料を収集した。米国の患者団体、NIHや議会図書館で資料調査を実施し、1980年代の米国におけるRare Diseases政策や希少疾患医薬品の開発法制の立案に関する資料、米国の患者組織の資料等を収集した。また、患者団体や政策立案者を訪問し、ヒアリングを行った。この調査を遂行するために、米国へ短期に渡航し現地調査を実施した。 平成28年度以降では、平成27年度に収集した資料やインタビューの整理と並行して、「疾患名モデル」の分析を行う。研究医を構成員として疾患毎に研究班が組織され、病態概念を確立し、研究謝金として患者へ医療費助成を行う日本の特殊な難病政策の形態を、本研究を通じて申請者は「疾患名モデル」と位置付けてきた。「疾患名モデル」の形成と変容のプロセスについて、難病対策要綱体制以降、疾患毎に編成され拡大した研究班に関する資料調査や研究班員へのインタビュー調査等を実施する。また、「疾患名モデル」の国際的な位置について、比較研究を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本国内では難病に関わる多様な資料について収集・整理を行ってきたが、本年度は特にスモン対策について、研究医が研究班を組織してきた過程に着目し、研究班が難病対策に果たしてきた役割の解明について重点的に作業を行った。スモンは、整腸剤として広範に用いられていたキノホルム剤の薬害であり、その原因が明らかとなっている。近代化に伴い、多くの公害病や医原病、薬害と呼ばれるような、その原因が人為的な健康上の被害が生じてきた。その中で、なぜスモンが難病とされ、公的な難病対策を形成する契機と位置付けられるようになったのかについて、資料検討とインタビュー調査を実施した。 なお本年度の主要な検討課題である、スモン対策が単一疾患研究事業から、難病という医療政策へ変容していく経緯検討については、年度内に当該成果に関して関連学会での学会発表や論文投稿等の成果報告を行っている。 また、次年度以降の本研究の準備と試行調査として、米国においてRare Diseases政策に関する資料調査及び、政策に参与した患者団体や政策立案者へのヒアリング調査を実施した。米国では1980年代以降に希少医薬品や研究開発に関する法規制の整備を契機として、研究開発促進を主体にした政策が展開されてきたが、その際に参画した患者組織や医学研究者、医療政策関係者に関する資料を、現地の調査協力者等から提供を受けて収集した。 上記の活動は本研究の目的と計画に添うものであり、研究の達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
難病という医療政策を通時的に捉えることは、今日まで熱心にはなされてこなかった。難病対策要綱体制下の難病政策に関する資料群は散在しているが、経年劣化や当事者の高齢化等によって主要な部分が失われつつある。一刻も早い資料収集と記録の作業が、学術的にも社会的にも求められているところである。 本研究においては、入手可能な政府公文書、医学研究班の報告書や医学論文群、旧国立療養所・国立病院の病院が作成した資料群を中心に、電子データ化アーカイブ作業を実施している。加えて患者会が作成した冊子、官僚や患者本人が書き残した当時の記録や日誌等も補助的資料として収集し分析の対象としている。資料の取扱いに関しては、本研究の特質上、個人の病歴等社会的にセンシティブな情報を多く取り扱うため細心の注意を払っている。相手方に研究について丁寧な説明を行い、貸借に関する同意を得たのちにアーカイブを行っている。また、歴史的に著名な人物や政策立案者として責任ある立場にあった人物である場合を除いて、本人やその親族に著しい不利益が予想される内容については個人が特定できる情報は匿名化を施すなど、個人情報の保護や人権の保護には細心の注意を払って調査を実施している。 今後は、日本型難病政策の特質である疾患名モデルが拡大していく際の、プロバイダ側のメカニズムを解明することを目的として、疾患名モデルの存立基盤となった研究医が主に所属した旧国立療養所及び国立病院について、現存している統計資料等の収集及び電子データ化・アーカイブ化を行い、公的な難病病床が量的にどのような変遷を経てきたのかについて、公的資料に基づいた実証的な検討を試みる。
|
備考 |
研究代表者(=渡部沙織)は、難治性疾患当事者として筆名「大野更紗」で研究・執筆・社会活動等を行っている。研究業績には、「大野更紗」の筆名で発表したものを含む。
|