本研究は、「医学研究への協力の謝金」という取り扱いによって患者の健康保険の自己負担分を補助あるいは無償化するという、世界的にみても非常にレアで奇妙な難病医療制度が、戦後日本において、どのような歴史的・社会的条件のもとで成立してきたのかについて、歴史社会学的な実証研究を行ってきた。戦後日本は国民に対する医療保障に、主に次の2つの手段を用いてきた。国民皆保険を通じて全ての国民の健康と生命を広くカバーする一般医療政策と、特定の人々の医療を税によって直接保障する公費医療政策である。本研究が対象とする難病は、希少性・難治性の疾患の患者に対する公費医療で用いられてきた政策カテゴリである。戦後日本の医療政策のなかで、いわゆる国民皆保険制度に支えられた一般医療政策の「例外」カテゴリとして形成され、特異な展開を遂げてきた難病政策の実相を、公的データを統合、再構築する事によって実証的に明らかにしてきた。 本年度は、在宅ケアや社会福祉政策の分野が医学研究事業の一環として機能補てんされていく過程を、研究班報告書や国の統計データの再統合を通じて明らかにした。疾患名モデルの難病政策に、患者の福祉やQOL、ケアを担う施策が研究事業の一環として機能補てんされる様相について、通時的に検討した。 また、アメリカ、欧州の主要各国など諸外国のRare Diseases Policy について、一般医療費の財源、一般患者の医療費自己負担の方式、難病患者の自己負担と公費医療の形態指標など制度の構造を調査した。日本を含めた各国のRare Diseases Policyを指標毎に整理し、(1)私費モデル、(2)普遍モデル、(3)疾患名モデルの3つに分類し、類型化を行った。
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