研究課題/領域番号 |
15J04150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宇佐美 こすも 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 日本刀 / 真贋 / 拵 / 日本文化 |
研究実績の概要 |
なるべく外国語で発表をしようという姿勢は本年度も継続できた。毎年恒例の東京大学大学院比較文学比較文化研究室の大澤コロキアム参加・機関紙Windows on Comparative Literatureへの投稿を主な練習機会としていたが、本年度はそれに加えて桜井英治先生主催の第一回Graduate Student Research and Methods Colloquium in Medieval Japanese Historyに参加し、日本史を研究する外国人研究者・留学生の前で、日本史の研究内容を英語で発表する練習も積むことができた。同コロキアムは2016年夏まで東京大学史料編纂所に留学していたPaula Curtisさんの尽力により大盛況のうちに終わったのだが、恥ずかしながら参加してくださった外国人日本史研究者の方々を一人も存じ上げず(世界的に著名な方が来場されていたらしい)、今更ながら視野の狭さを改めて思い知った。日本史といえば日本で日本人が黙々と行うというような時代は既に終わっていると頭では分かるのだが、確かに外国人研究者との交流が(特に対外関係史以外の分野で)極端に少ないように思う。アウトリーチ活動と併せて今後も意識して外国語での発表・外国語の発表や論文などに注目を続けていきたい。 本年度の出張は備前おさふね刀剣の里にて日本刀古式鍛錬の見学・黒川古文化研究所シンポジウム出席の二件であり、特に前者は映像などでは計り知れない刀剣鍛錬の危険さも身を以て体験することができ有意義なものになった。また日本美術刀剣保存協会の定例刀剣鑑賞会では名のある刀剣を実際に手に取って鑑賞するとともに、学芸員の方々から日本刀そのものや日本刀文化、また刀剣博物館そのものに関する話などを伺う貴重な機会になっており、その会話で得られた知識や発想も研究の支えになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外国語(英語)での成果発表は昨年以上に行うことができたものの、日本語論文の発表が遅々としているのは事実である。ただ進展がないのではなく、博士1年目の折に当時では手に余るテーマで口頭発表を行い、その後始末をしているというのが現状である。2015年度の史学会で偽銘刀贈答に関する発表を行って以降、それを論文にまとめる作業を行っていた。しかし従来の「本物は善、偽物は悪」という価値観に反する結果だったため、当時ではそれをどう位置付けていいか思案に余っていた。おりしもその後、国立歴史民俗博物館の「大ニセモノ博覧会」および関連書籍の出版、黒川古文化研究所シンポジウム「真贋とそのはざま」など類似の視点を持つものに触れ、それらの視点に学びつつ考えを再構築できた。また関連諸分野の成果に学び、改めて考えを整理する時間が必要だった。ある程度まとまったのが本年度の春で、そこから大澤コロキアムでの口頭発表・駒場祭「10分で伝えます!東大研究最前線」でのプレゼンに整理し、ひろく賛意を得ることができたと思う。本論は現在鋭意執筆中で、おそらく日本刀研究・中世贈答研究に一石を投じるものになると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは現在執筆中の論文を速やかに発表することを目指したい。その後は中世と近世の比較を行いたいと考えている。というのは、刀剣業界では慶長年間以前と以後で刀剣そのものが大きく変わったというのが通説であり、また刀剣の鑑定や良い刀の価値観も近世のものが多く現在にまで引き継がれているようで、刀剣にとって中世と近世の間には技術的にも文化的にも断絶があると考えるからだ。それがどのような断絶か判断するためにも、中世と近世以降の比較は有効な手段だろう。一つの方法として、中世に編纂された刀剣鑑定書と近世のものとの内容の比較を考えたい。刀剣鑑定書は刀身の特徴を記す実用書でもあり、また伝説や名刀の所有者を記録する雑学書でもある。その検討を通じて、それぞれの時代の鑑定家たちがどのような部分に注目していたかが明らかになろう。
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