研究課題/領域番号 |
15J04159
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
島本 多敬 京都府立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 地図出版 / 板元 / 河川図 / 治水史 / 大坂 |
研究実績の概要 |
本年度は、手描き河川図の作製背景にある幕藩領主による広域支配・河川管理そのものについて、主に検討を進めた。 まず、前年度までの成果を踏まえて、「池尻田中家文書」の河内国狭山池の管理関係史料に含まれる、狭山池治水をめぐる狭山藩と幕府(大坂町奉行所、幕府勘定所)・岸和田藩との交渉記録をより詳細に分析した。その結果、18世紀初頭の上方地域における治水制度の再編期に、個別領主である狭山藩側は池の治水の改善による自領の存立維持を求め、幕府側は河川管理の管轄区域再編を含めて奉行所の政務負担軽減と治水の強化を目指していたこと、そして、その両者の目的を達するため、幕府が大名預所制度を介して狭山藩に広域的な河川支配の一区域を担当させていたことを明らかにした。 次に、本年度は、河川流域や山地など広域におよぶ地域の支配に関わる手描き地図資料の残存状況を把握するため、諸地域の資料所蔵機関などで調査をおこなった。この一環で、京都府舞鶴市による市域に関わる絵図資料の調査研究に参画し、幕府・藩による海の把握に関係する国郡・藩領絵図について概観するとともに、特に重要な資料について調査分析をおこなった。なお、前年度に予定していた、大坂町奉行などの作成にかかる河川支配関連資料の収集・調査については、より広い地域間比較に適した事例収集のほうが有効であると判断し、上記の調査に代替した。 一方、刊行地図との関連という点においては、1802年の淀川水害にかかる水害図の作製・出版過程をさぐるため、沿岸の各自治体史の記載を参照し、水害そのものの被害状況や幕府および村々の対応を把握する作業をおこなった。また、三井文庫・刈谷市中央図書館ほか各種機関に所蔵されている災害図・摺物などの資料を調査し、災害図・摺物の全体的な出版動向と、そのなかでの水害関係出版物の位置づけを評価するための基礎的な作業をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手描き地図とその作製の背景をなす支配・行政に関する調査・分析に関しては、主たる対象地である大阪狭山市周辺地域について、論文として成果を公表することができた。また、他地域の事例についても、愛媛県南部地域などで関係資料を広範囲に調査・確認することができ、特に、舞鶴市域については一部資料の分析をおこなうことができた。これにより、本研究課題の総まとめに必要な、主要対象地域(大坂周辺地域を中心とした畿内)の成果と比較対照できる事例を見出すことができた。 刊行水害図の議論に関しては、前年度に課題としていた治水・河川管理の実態との関連について、上記の分析により概ね明らかにすることができた。刊行水害図を災害図全般の出版動向のなかに位置づける作業については、なお残されてはいる。しかし、刊行図を所蔵する主要な機関における所在調査については大部分を済ませることができた。また、災害摺物コレクションを所蔵する機関での調査もおこなうことができ、次年度に、災害図の出版動向を検討するための基礎的作業を十分に実施できたといえる。 以上から、前年度の課題をおおよそクリアしつつ、次年度におこなう予定の手描き地図における他地域との比較、また、災害図の出版動向における刊行水害図の位置づけ作業の準備を一定程度おこなうことができたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が本研究課題のまとめの年次であることに鑑み、まずは、これまで実施してきた主要な所蔵機関における刊行図の現資料調査について、補足調査をおこなう。これによって、主要な所蔵機関における刊行都市図・災害図の所在の把握を完了させる。 次に、刊行水害図の出版に関して、摺物やほかの刊行災害図との関連を把握したうえで、その位置づけを議論し、その成果を取りまとめて公表する予定である。この分析に必要となる災害図関連資料の調査は、上記の補足調査と合わせて実施することとする。 また、大坂周辺地域の比較事例として愛媛県南部地域を取り上げ、河川・山地に関わる手描き地図の作製過程とその政治史・社会史的背景の分析をおこなう。分析に際しては、実地踏査、現資料の調査を予定している。 以上に掲げた刊行地図の調査・分析、および手描き地図に関する比較事例の研究を踏まえて、本研究課題のまとめとして博士論文を執筆する予定である。
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