研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本と中国において夫婦間顕在的葛藤が青年期の子どもの精神的健康に及ぼす影響を明らかにすることであった。子どもの精神的健康に影響を与えるプロセスについて、夫婦間顕在的葛藤が親の養育行動や家族機能などを媒介する間接的プロセスや、夫婦間顕在的葛藤にさらされることが直接影響を与える直接的プロセスが指摘されている(Cummings et al., 2000)。日本と中国において、前者の間接的プロセスに関しては数多くの研究がなされてきたが、後者の直接的プロセスについての研究は不十分である。また、後者の直接的プロセスに関して、情緒安定性仮説(Davis & Cummings, 1994)や認知状況的枠組み(Grych & Fincham, 1990)の有用性、つまり認知・情動・行動から夫婦間顕在的葛藤に対する子どもの主観的体験を捉える必要性が述べられている。夫婦間顕在的葛藤下における青年期の子どもの精神的健康のメカニズムが定かではないため、本研究では青年期の中期にあたる日本と中国の高校生を対象に、直接的・間接的の2通りのプロセス及び認知・情動・行動の3つの側面を統合する視点からそのメカニズムを解明することとした。本研究の目的を達成するために、夫婦間顕在的葛藤に対する青年期の子どもの反応、夫婦間顕在的葛藤後の子どもの親行動知覚と心理的ストレス反応との関連を検討した。その結果、日本と中国ともに、夫婦間顕在的葛藤は子どもの反応や親の養育行動を通して青年の心理的ストレス反応に影響を及ぼすと示された。日本においては、自分の状況を心配し、自分が脅かされるような自分に関する恐れ認知、情動反応、夫婦間顕在的葛藤後の母の温かさ・信頼、中国においては、自分に関する恐れ認知、夫婦間顕在的葛藤後の父の温かさ・信頼が心理的ストレス反応と関連することが示された。
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