本年度は、前年度までの研究で確立した「コバルト触媒とジエンを用いるラジカル環化反応」を鍵工程とする天然物の全合成を検討した。合成ターゲットとしては、六-五-六員環が縮環した三環性骨格を持ち、生理活性を有するTaiwaniaquinone Dを選択し、六員環部分をラジカル環化反応で構築することにした。 検討の初期段階では、五-六員環が縮環したインデンに対してアルケン側鎖を導入したジエンを用いてラジカル環化反応を検討したものの反応は複雑化し、目的の環化体を得ることは出来なかった。本結果を受け、六員環よりも構築がより容易な五員環部分をラジカル環化反応で構築する合成経路を計画することにした。種々検討をした結果、後の六員環部分に該当するベンゼン環にアルケンユニットを二つ導入したジエンをモデル基質として合成し、コバルト触媒を用いるヒドロシアノ環化反応条件に付したところ、望みのラジカル環化反応が進行した。更に、環化反応の際に導入したシアノ基のα位の酸性度が高いという性質を利用して、残る六員環部分を分子内SN2反応によって構築後、四級炭素の構築も達成し、Taiwaniaquinone Dが有する基本骨格の構築に成功した。 モデル基質で環化反応が進行することを確認したため、現在はベンゼン環上にメトキシ基を導入した基質を用いて合成を検討している。モデル基質と同様の合成経路で基本骨格を構築後、シアノ基を還元してメチル基へ導くことで全合成を達成する予定である。
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