溶融塩の輸送挙動を分子動力学シミュレーションによって高い確度で評価するために、密度汎関数法に基づく第一原理計算を用いて分極イオンモデルを構築し、単純なアルカリ土類ハロゲン化物の溶融塩や、核融合炉の液体ブランケット材として期待されているフリーベおよびフリナーベ混合溶融塩の物性評価に応用した。さらに、アルカリ土類ハロゲン化物系においては、超イオン電導相における輸送挙動の解明にも応用し、その結果、Green-Kubo公式から得られる正味の電気伝導率と、Nernst-Einsteinの電気伝導率の間の関係の温度依存性を明らかにした。この研究成果は、超イオン電導相におけるイオンの自己拡散係数と巨視的な電気伝導率と間の一般的な関係性を示唆するものであり、超イオン電導相と類似の挙動を示す複合材料系にも有用な知見といえる。 さらに本研究では、このモデルを酸化物材料系へと拡張し、アルミノケイ酸塩系における架橋酸素のネットワーク構造の解明に応用した。その結果、Al-O-Alの架橋酸素の双極子モーメントは、Si-O-SiやSi-O-Alの架橋酸素と比べて有意に小さく、架橋酸素の結合角度はより広く分布することが分かった。またAl-O-Alの架橋酸素に関しては、角度分布の修飾子濃度依存性が極端に大きく、とくにその架橋酸素に対するナトリウム配位数が増えると、架橋酸素の角度分布は狭くなることが分かった。さらに修飾子の異なる組成のガラス構造と比較することで、Al-O-Alの架橋酸素の構造は修飾子のイオン種に強く依存することが分かった。これにより、修飾子がガラス構造の体積を圧縮させる際、Al-O-Alの架橋酸素が優先的に歪むことが明らかになった。この研究成果は、ガラスのネットワーク構造と修飾子の関係を導くものであり、強化ガラスや放射性廃棄物含有ガラスの生産プロセスの改良に有用な知見といえる。
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