研究課題/領域番号 |
15J04362
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
馬場 竜子 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 水田土壌 / [FeFe]-ヒドロゲナーゼ / 水素生成微生物 / 硫酸還元菌 / メタン生成古細菌 |
研究実績の概要 |
水田土壌中の水素代謝微生物群集の多様性や動態、生態系内での相互作用を明らかにすることにより、水田土壌生態系における種間電子転移を介した微生物間相互作用や、有機物分解過程を明らかにすることを目的として、解析を行った。 1.水素消費微生物を対象とした分子生物学的解析手法の確立:水素代謝酵素であるヒドロゲナーゼのうち、[Fe]-ヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hmdおよび[NiFe]-ヒドロゲナーゼに関連する酵素をコードする遺伝子hypDを対象としたPCR法の検討を行った。hmdについては、多様なhmdを増幅することが可能なプライマーの設計とPCR法の確立を試みたが、これまで有効なプライマー・条件が見つかっておらず、さらなる検討が必要であると考えられた。hypDについては、Beimgrabenら(2014)の報告したプライマーセットを用いて土壌およびメタン生成古細菌ゲノムDNAからのPCRを試み、目的断片長の増幅産物を得た。hypD解析手法の水田土壌への適用により、より広範な水素消費微生物群集の解析が可能となると考えられるため、今後さらなる検討が必要であると考えられる。 2.水素代謝微生物の共培養系の確立:水田土壌から分離された硫酸還元菌であるA1株およびメタン生成古細菌であるAH1株について共培養系の確立をした。さらに、水田土壌から分離された水素生成菌であるH2株も併せて水素生成酵素である[FeFe]-ヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hydの転写活性を解析した。その結果、H2株とA1株の有する複数のhydの転写活性が培養時期によってそれぞれ変化することと、さらにA1株では硫酸還元条件と共培養条件でhydの転写活性が変化することが明らかとなった。このことは、hydが環境条件による転写制御を受けることや、水素生成微生物が環境の変化により水素代謝能を変化させる可能性を示しており、水素生成微生物群集の環境中での多様性や動態の重要性を示唆するといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.水素消費微生物を対象とした分子生物学的解析手法の確立については、当初よりやや遅れている。hmdの解析手法については、プライマーの検討も含めPCR条件が確立できておらず、データべ―ス上の配列解析や文献調査も含めた検討が必要になると考えられる状況である。一方で、hypDを対象とした解析手法については、過去の文献を参考にPCR条件を確立できたものの、土壌への適用はできていない状態である。そのため、当初予定していた有機物分解過程の進行で変化する水素消費微生物群集を対象とした解析は実施できておらず、全体としてはやや遅れているといえるが、hypDについてはPCR条件を確立できたため、今後の研究はより順調に進行できると考えられる。 2.水素代謝微生物の共培養系の確立については、水田土壌から分離された硫酸還元菌とメタン生成古細菌の共培養系を確立したことに加え、2年目に実施予定だった水素生成反応を触媒するとされる[FeFe]-ヒドロゲナーゼをコードする遺伝子hydを対象とした転写活性および水素生成活性の解析まで実施できたため、当初の計画より進んでいるといえる。 以上より、研究全体についての現在までの進捗状況としては、やや遅れているといえるが、次年度には今年度の成果を用いてより順調に研究を進行できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.水素消費微生物を対象とした分子生物学的解析手法の確立については、上述したhmdおよびhypDを対象とした解析手法の土壌への適用を目指す。また、これらの条件を確立した後、2.水素代謝微生物の共培養系の確立に関わる水素消費酵素遺伝子の転写活性の解析も実施したいと考えている。 また、これまでに得られた結果および先行研究より、hydの系統学的解析の困難さが明らかとなった。そこで、hydを対象とした解析による、水田土壌の水素生成微生物群集の多様性解明を目的として、in situ PCRおよびFISHとフローサイトメーターを用いた解析を実施し、hydと16SrDNAの関係を明らかにしたいと考えている。
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