研究課題/領域番号 |
15J04383
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 長史 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 国際政治 / 紛争研究 / 平和構築論 / 軍事介入 / 出口戦略 |
研究実績の概要 |
本研究は、「武力を用いた平和活動(armed peace operation)からの撤退決定が難しいのは、なぜか」という問いに答えるものである。大国間戦争の脅威が遠のいた冷戦終結後、武力を用いた平和活動が盛んになるとともに、撤退(終戦)の決定は介入(開戦)の決定よりも難しいといわれる機会が多くなった。例えば、米軍は、2001年に介入したアフガニスタンにおいて、2016年現在もなお駐留を継続し、「米国史上最長の戦争」と呼ばれるに至っている。しかし、撤退の決定は難しいという言説が繰り返されながらも、それがなぜ難しいのかについては解明が試みられることがほとんどなく、出口戦略を練る意思や能力が介入国には欠けていたと事後的に言及されるにとどまってきた。 この点につき、本研究は、たとえ出口戦略を十分に練る意思と能力を介入国が持っていたとしても撤退決定が困難になる、より原理的・構造的な要因を指摘するものである。被介入国の国内平和の定着を目指す平和活動においては、内政不干渉原則の存在等もあり、目指すべき平和が何かについて既に議論がある。そのため、介入国にとっては、介入時に出来る限り多くの支持を得られるように、多様な解釈が可能な活動目的を打ち出すのが合理的となる。しかし、「活動目的の多義性」は、何をもって目的達成といえるのかについての基準もまた多様な解釈を許す「目的達成判断基準の複数性」につながる。それゆえ、緩やかな基準に照らして目的達成を強調する活動終了派に対して、活動継続派は厳格な基準を持ち出して目的未達成を強調し、互いに相手を説得しきれない状況に陥る。介入正当化を容易にしやすいものが、撤退正当化を困難にしやすいわけである。 初年度となる本年度は、このような関係を「出口戦略のディレンマ」と概念化したうえで、米国主導のアフガニスタン、イラク等における活動について事例分析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2015年度の計画は、①理論枠組みの精緻化、②アフガニスタン、イラク、コソボ、東ティモールに関する事例分析、③大国主導型の活動に焦点を当てるもの、イラクという特殊なケースに焦点を当てるもの、国連主導型の活動に焦点を当てるものという三種類の報告を行なう、という三段階に分かれていた。 このうち、①については予定通りの進捗があり、②については他の三事例に比べてコソボに関する分析に甘さが残っているものの、おおむね予定通りに進展しているといえる。また、③については、三種類の報告予定のうち、前二者を統合したものを国立台湾大学で開催された国際会議において報告し、有意義なフィードバックを得ることができた。なお、国連主導型の活動については、報告の準備は整っているため、2016年度に適切な機会を見つけて実施する予定である。 また、本研究に密接に関わる論文として、実務家との共著論文を『国際社会科学』に発表した。日本における平和活動に関する議論の構図を国連等国際社会における議論と比較したものであり、本研究の成果は、そのうち特に後者に活かされている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、二段階に分けて研究を進めていく方針である。 まず、①上記の4事例に関する分析を深めるとともに、新たに米国主導のソマリア介入、国連主導のカンボジア介入に関する事例分析を新たに行なう。そのうえで、②二本の論文執筆を行ない、成果の公開に努める予定である。一つは、米国主導の活動に関するものであり、アフガニスタン、イラク、そしてソマリアが主な検討事例となる。いま一つは、国連主導の活動に関するものであり、コソボ、東ティモール、そしてカンボジアが主な検討事例となる。
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