カーネル平均埋め込みによるデータ解析の問題は計算コストであり,一般に訓練データ数の3乗のオーダの計算量が必要となる.本研究ではこの計算コストを削減しカーネル埋め込みを大規模データに適用可能にするための手法を2つ開発した.一つはカーネル行列の低ランク近似に基づく手法であり,具体的にはカーネル行列の低ランク近似を用いてカーネルベイズ則を実行するためのアルゴリズムを導出した.もう一つはカーネルハーディングによるデータ選択に基づく手法である.これは訓練データのうち有用なデータを選択し,余剰なデータを削減する方法である.上記の2つの高速化手法を,以下で説明するフィルタリング手法に応用した.計算機実験の結果,これらの高速化手法は推定精度を犠牲にすることなく大幅な高速化を実現できることが確認できた.
今年度は以上の高速化手法の応用として,カーネル埋め込みを用いた時系列データ解析に関する研究を推進した.具体的には,状態空間モデルにおける潜在状態推定(フィルタリング)のための新たなアルゴリズムを提案した.既存手法は時系列データの生成過程に関する事前知識を必要とするが,これは観測値と潜在状態の関係が複雑な場合,強い仮定である.提案手法はこの仮定が満たされない場合でも適用できる.必要なのは観測値と潜在状態のペアに関する訓練データである.このような訓練データが得られる状況の例としてロボティクスにおける位置推定問題が挙げられる.これは与えられたセンサーデータから,ロボットが建物内のどこにいるかを推定する問題であり,ロボティクス分野における重要な課題である.この問題では通常のフィルタリング手法を適用するのが難しい.提案手法はこの場合でも適用可能であり,既存の位置推定手法に比べ高い精度で推定できる.以上の成果は国際論文誌Neural Computationにおいて発表した.
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