研究課題/領域番号 |
15J04435
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 あゆみ 大阪大学, コミュニケーションデザイン・センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ベルリン精神分析インスティテュート / メランコリー / カール・アーブラハム / ラドー・シャーンドル / メラニー・クライン |
研究実績の概要 |
平成27年度は、ベルリン精神分析インスティテュートの中心人物たちの関係性、すなわちカール・アーブラハムとラドー・シャーンドルとメラニー・クラインの関係性を明らかにするという課題を果たした。この三者の精神分析理論の連関を浮き彫りにすることを試みた拙論が「Freudの欲動論からKleinの対象関係論への移行――「うつ」の精神分析的研究における対象概念の変遷を手掛かりに」である。これは日本精神医学史学会の学会誌『精神医学史研究』Vol. 19、no. 2に掲載され、精神科医や医学史家の方々から高い評価を受けた。本稿の概要は以下の通りである。 まずは「うつ」の精神分析的研究における対象概念の変遷を跡付けることにより、フロイトの欲動論からクラインの対象関係論への移行を明らかにした。「うつ」における対象の取り込み機制についてのフロイト、アーブラハム、ラドーのそれぞれの研究によって、欲動よりも対象関係へと徐々にアクセントが移され、クラインの対象関係論が導き出されたのである。また、アーブラハム、ラドーを経てクラインへと至り、精神分析において欲動だけでなく対象関係の問題が大きく扱われるようになり、このことによって精神分析療法は精神病圏の疾病にアプローチできるようになったということを本稿では示した。日本の精神医療では、精神分析理論はあまり参照されることはないが、「薬の効かないうつ病」が急増した昨今、精神分析療法を改めて見直すべきではないかということも提言した。さらに、ベルリンで活躍したこれら三人の分析家たちの理論的連関を明らかにしたことによって、分析家同士の相互理解が深まっていけば、それがたとえ批判的なものであったとしても、生産的な議論がなされるということを本稿で示唆することができたと思われる。これは現在、分派が多く、学派間の交流がない精神分析の諸学派への批判になりうるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の目標では、第二次世界大戦前までドイツの精神分析の中心地であったベルリンおよび現在の中心地であるフランクフルトの各インスティテュートにおいて資料収集し、戦前のベルリン精神分析インスティテュートで活躍した分析家の孫弟子にあたる分析家たちへのインタビューを行う予定であった。しかしながら、博士論文の執筆と細部の検討に思いのほか時間と労力を要したため、博士論文の内容にも関係し、研究課題にも深いつながりのあるベルリン精神分析インスティテュートの中心人物たちの関係性を明らかにすることを優先した。ベルリン精神分析インスティテュート全体の活動に関する報告はできなかったが、このインスティテュートで活躍した中心人物たちの理論的連関、すなわちそこで育まれた諸理論の関係性を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に果たせなかった課題をまずは遂行する。その課題は、第二次世界大戦前までドイツの精神分析の中心地であったベルリンおよび現在の中心地であるフランクフルトの各インスティテュートにおいて資料収集し、戦前のベルリン精神分析インスティテュートで活躍した分析家の孫弟子にあたる分析家たちへのインタビューを行うことである。さらに、戦前のインスティテュートの活動に関する資料を集め、インスティテュートの臨床記録を体系化したものを報告書にまとめ、これを学会で発表することを目指す。
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