研究課題/領域番号 |
15J04436
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松川 嘉也 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / 詳細化学反応機構 / 動的モンテカルロ法 / 感度解析 / 量子化学計算 / 遷移状態理論 / HACA機構 / PAC機構 |
研究実績の概要 |
H27年度は,(1)動的モンテカルロ(KMC)シミュレーションの計算コードの開発,(2)量子化学計算による反応速度定数の算出,(3)支配的な反応を明らかにするための反応動力学計算による感度解析を実施した. はじめに,(1)メチル基の付加による多環芳香族炭化水素(PAH)の成長では,側鎖の存在が重要となるため,KMCシミュレーションにおいても側鎖を考慮する必要がある.しかしながら,既往のKMCシミュレーションにおいては計算負荷低減のために,Jump processを考慮することで側鎖が無視されることが多かった.そこで,KMCシミュレーションによって,側鎖がある場合のPAHの成長を考慮するための新規手法を提案し,計算コードを開発した.また,(2)量子化学計算によってHydrogen-Abstraction―Carbon-Addition (HACA)機構の素反応,Phenyl Addition Cyclization (PAC)機構の素反応の反応速度定数を算出した.(3)以上をもとに構築した詳細化学反応機構を使って,メチル基の付加,アセチレンの付加,フェニル基の付加のいずれがPAHの成長に影響を及ぼすのかを明らかにするための感度解析を実施した.その結果,検討を行った1100–1500 Kのいずれの温度においても,アセチレンの付加が最もPAHsの成長に影響を及ぼすことが明らかとなり,フェニル基の付加は温度の上昇に伴って影響が大きくなることが分かった.一方,既往の実験等で指摘されていた,メチル基の付加によるPAHsの成長は,きわめて影響が小さいことが示唆された.このことは,メタン・メチルラジカルの存在下でPAHsの生成量が増加するのは,C1のメタン・メチルラジカルが一度,C2のアセチレンなどに変化したのち,PAHsに付加するためだと示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は,反応速度定数の算出(①量子化学計算による活性化エネルギーの算出,②13Cを用いた熱分解実験による頻度因子の算出),③KMCシミュレーションの解析コードの開発を実施する予定であった.②13Cを用いた熱分解実験による頻度因子の算出について,予算の充足率が予想を下回り,高価な13Cのメタンガスを購入できなかったため,量子化学計算による頻度因子の算出に変更した.量子化学計算によって頻度因子を算出する場合には,①活性化エネルギーの算出と比較して,計算コストが大きいため,購入するワークステーションを増やして対応した.反応速度定数の算出(①および②)については,H27年度およびH28年度を通じて行う予定であったが,想定していた全反応に対して反応速度定数の算出が完了し,全体として前倒しして進んだといえる.③KMCシミュレーションにおいては,従来の手法では,想定していた側鎖を考慮した解析ができないという問題に直面したが,新規アルゴリズムを提案することで,解決した.結果的に従来法と比較して,効率の良い手法を開発することができ,計算コードが完成した.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度には,①反応速度定数の算出,②速度モデルの構築,および③ケーススタディを行う予定であった.①反応速度定数の算出については,H27年度に前倒しして完結したため,今後,計算が必要な反応が発見されない限りは,実施することはない.そこでまず,KMCシミュレーションによって②速度モデルの構築を行う.KMCシミュレーションによって速度モデルに追加する反応を抽出し,速度モデルを構築する.速度モデルを用いた数値解析により化学種の濃度を予測し,実験と比較することで速度モデルの妥当性を検証する.妥当な速度モデルが得られたのちに,③ケーススタディによって脂肪族側鎖を持つ芳香族炭化水素およびPAHsの生成量を増減させる条件を見出す.
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