平成28年度には、(1)反応速度定数の算出、(2)速度モデルの構築および(3)ケーススタディの実施を行う予定であった。このうち、(1)反応速度定数の算出については平成27年度中に前倒しで実施したため、本年度は(2)速度モデルの構築および(3)ケーススタディの実施を行った。動的モンテカルロ(KMC)シミュレーションの結果、アセチレンあるいはエチニルラジカルの付加反応が最も支配的な反応であることが明らかになった。これらの反応は、すでに既存の速度モデルに十分組み込まれているため、新たに反応を追加する必要はない。ベンゼンあるいはフェニルラジカルの付加反応は、アセチレンあるいはエチニルラジカルの付加反応程は重要ではないが高温では重要な反応であることも明らかになった。これらの反応は、既存の速度モデルではごく一部しか考慮されてない。そこで、フェニルラジカルの反応を香束らの詳細化学反応機構から採用し、追加することで、これらの反応を考慮できるようにした。 ケーススタディを行った結果、原料にベンゼンを用いた場合と比較して、トルエンあるいはエチルベンゼンなどの側鎖のついた芳香族炭化水素を用いた場合の方が多環芳香族炭化水素(PAH)の生成量が大きくなった。この原因について、側鎖が分解することでメチルラジカルが生成し、反応を促進したのではと考え、原料にメタンを添加してケーススタディを行ったが、メタンを添加すると多環芳香族炭化水素の生成量はむしろ低下した。 以上のことから、側鎖を有する芳香族炭化水素を原料とした場合にPAHの生成量が増加し、メタンの存在量が多いときに、PAHの生成量が低下する可能性が示唆された。 加えて、詳細化学反応機構を流体計算と連成させた際の高速化および詳細化学反応機構の簡略化手法の精度向上にも取り組みいずれも既存の手法と比較して、大きく効率が向上した。
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