私は細胞内の力学特性を決定する要因を明らかにすることを目指し、「高分子混み合いによる混み合いガラス的な挙動」と「力学的非平衡状態にある細胞内部の非熱的な駆動力の影響」に着目し実験的な研究を遂行した。本研究では、マイクロメートルサイズの粒子をプローブとして、レーザーを用いたマイクロレオロジー法を用いて力学特性を測定した。生きた細胞内部にプローブを撃ち込み、その揺らぎや応答を測定することで、細胞の内部の力学特性の測定を可能にした。細胞内部では力学駆動による激しい揺らぎが生じているため、粒子位置の正確な長時間計測や、激しく揺らぐ粒子に任意の外力を加えて応答を計測することは困難であった。細胞内部の性質を計測できないことは、細胞の振る舞いに不明な点が多く残る一つの原因となっている。我々は、生きた細胞の中に小さな粒子を撃ち込み、Feedback制御を用いて細胞質流動に伴う激しい粒子の動きに時々刻々追随することで、細胞内部の粒子の位置を常にナノメートル以下の精度で検出できるFeedbackマイクロレオロジー測定システムを開発した [Nishizawa 2017 Science advances]。細胞内部は様々な高分子や器官・コロイドでとても混み合っており、またモータータンパク質が生み出す力や代謝によって駆動された力学的に非平衡な状態にある。そのため、マイクロスケールで力学駆動された混み合い状態にある「生き物」のレオロジーは単純な「もの」とは異なっており、未だそのレオロジーが決定される物理的機構・要因に関しては不明な点が多い。本研究では、混み合いの影響と力学駆動の影響を調整した試料を作成し、そのレオロジーを比較検討することで、これら混み合い効果・力学駆動が細胞内部の非平衡なレオロジーに与える影響を明らかにした [Nishizawa 2017 Scientific reports]。
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