研究課題/領域番号 |
15J04492
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安藤 直紀 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ホウ素 / π電子系化合物 / 蛍光 / 電子受容性 / Lewis酸性 / 構造固定 / 溶媒効果 |
研究実績の概要 |
ホウ素を鍵元素としたπ電子系の新たな基本骨格の創出および機能開発に取り組んだ.B-フェニルジベンゾボレピン骨格をメチレン架橋部位により平面固定化した化合物を設計・合成し,構造解析,光物性など基礎物性を検討した.まず,分子内Friedel-Crafts環化反応により平面固定B-フェニルジベンゾボレピン(1)の合成に成功した.得られた化合物は,立体保護なしでも空気や水に対し十分な安定性を示すことがわかった.一方で,フッ化物イオンによる滴定により,化合物1が既存の平面固定トリフェニルボランや一般的なトリアリールボランであるトリメシチルボランよりも高いLewis酸性をもつことを明らかにした.さらに化合物1はフッ化物イオンだけでなく,ピリジン誘導体ともLewis酸塩基錯体を形成することを見出した.以上の結果から化合物1の合成により,空気や水に対する安定性を確保しながらも,ホウ素がもつ性質をより強く反映した新たな基本骨格を構築できたといえる.また,化合物1は429 nmを蛍光極大とする強い青色発光を示すことから,発光性材料としての展開も期待できる.さらに,化合物1はクロスカップリング反応により容易に構造修飾が可能であり,様々な誘導体の合成にも成功している.中でも,電子供与性の4-(ジフェニルアミノ)フェニル基を導入した誘導体は,蛍光波長の顕著な溶媒効果を示すにもかかわらず,溶媒の極性に依存せず高い蛍光量子収率を維持することがわかった.これは,従来のドナー・アクセプター型の系と比較して対照的な結果であり,特異な発光特性を示す分子を創出できたといえる.これらの結果は,本骨格の含ホウ素π電子系基本骨格としての有用性を示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホウ素を含むπ共役化合物は,ホウ素の空のp軌道に由来した特異な物性や反応性を示すことが知られており,基礎および応用の観点から広く研究が進められている.本研究では,三配位ホウ素化合物の光反応性をはじめとする,ホウ素の特徴を活かした新たな機能の創出を目的としている.昨年度は,含ホウ素π電子系の新たな基本骨格の開発を目指し,平面固定ジベンゾボレピンの合成に成功した.また,得られた化合物の基礎物性を明らかにするとともに,クロスカップリング反応によりπ拡張した誘導体の合成も達成した.よって,本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
三配位ホウ素化合物における新奇光反応であるボラ-Nazarov環化反応を機軸としたフォトクロミック分子系の確立に取り組む.まず,基質適応範囲を明らかとするため,7員環の架橋原子や縮環する芳香環をかえた誘導体を合成する.その後,置換基を導入した誘導体や7員環以外をもつ基質,さらにホウ素上に異なる3つの置換基をもつ基質を検討し,これらの変化が反応系に与える立体・電子効果を調べる.具体的には,得られた化合物について単結晶X線結晶構造解析,光物性,サイクリックボルタンメトリー測定を行い,光反応前の基質の情報を収集する.加えて基質の光反応性やフォトクロミック特性を評価する.また,反応が進行したものに関しては,生成物の構造解析や詳細な物性を明らかにする.これらと並行して理論計算を実施し,反応前後の構造,電子状態,エネルギーを検討し,本反応の一般化を目指す.
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