研究実績の概要 |
本年度は海洋軟体動物アメフラシから新規の9,11-セコステロイド化合物 aplysiasecosterol B, C (AsB, C)を単離し、その全絶対立体配置を解明した。三重県にて採取したアメフラシ (湿重量 54.8 kg) の含水エタノール抽出物について、抗炎症活性試験 (LPSで刺激したマウスマクロファージ由来RAW264.7 細胞のNO生産抑制効果) を指標に分離し、顕著な活性を示す画分を得た。この活性画分の含有成分としてaplysiasecosterol B, C (AsB, C)をそれぞれ2.8 mg, 1.6 mg 単離した。AsB, Cの抗炎症活性試験を行った結果、活性は見られなかったが、AsB, Cは平成26年度に同じくアメフラシより単離・構造決定した新規骨格を有する9,11-セコステロイド化合物aplysiasecosterol A (AsA) の類縁体であることが予想された。そこで、AsAの生合成経路の更なる理解のため、AsB, Cの構造解析に着手した。 各種機器分析、化合物の誘導体化、および計算化学を駆使することでAsB, Cの全絶対立体構造を明らかにした。AsB, Cは一般的なステロイド化合物のC-9-C-11の結合が酸化開裂した9,11-セコステロイド化合物であり、両者は側鎖部上C-24位のジアステレオマーであった。また、そのステロイドAB環部分はシス縮環型のデカリン構造を有していた。 AsAは、一般的な9,11-セコステロイド化合物のD環および側鎖部分と同様の構造を有する一方、AB環構造は持たず、新規の三環性骨格を有している。また、AsBは今回AsAと同じ生物から単離した9,11-セコステロイド化合物であり、D環および側鎖部分の構造がAsAと同一である。以上から、AsBはAsAの生合成前駆体であると推定し、新規骨格を有するAsAの生合成経路について考察した。この生合成仮説では、2回のα-ケトール型1,2-転位に伴う骨格転位および分子内アセタール化によりAsAが生成すると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的としていた新規9,11-セコステロイド化合物aplysiasecosterol B, Cの全絶対立体配置の決定を達成した。aplysiasecosterol B, Cは、平成26年度に発見した新規骨格を有する9,11-セコステロイド化合物 aplysiasecosterol Aと同じ生物から単離しており、その構造からもaplysiasecosterol Aの生合成前駆体であることが推定できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で見いだした 2 つの新規化合物aplysiasecosterol B, C、および平成26年度に報告したaplysiasecosterol Aは、顕著な抗炎症活性を示すアメフラシ抽出物の分離画分から単離したが、いずれの化合物も100 μMの濃度では活性を示さなかった。従って、この活性画分にはaplysiasecosterol A, B, Cとは異なる活性物質が含まれていると考えられる。今後は、この活性本体となる物質の探索研究に着手する。 また、ヒト前骨髄性白血病細胞株 HL-60 を用いた細胞毒性評価を行った結果、aplysiasecosterol Aは HL-60 細胞に対して中程度の細胞毒性 (IC50 16 μM) を示したが、aplysiasecosterol B, Cは活性を示さなかった。以上から、aplysiasecosterol Aの新規骨格部分が細胞毒性を示すのに必要な構造である可能性が示唆された。従って、今後aplysiasecosterol Aのより詳細な生物活性評価のための量的供給を目的とした新規骨格部分の合成研究に着手する。
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