概ね研究計画に沿って研究が実施することができた。まず、米軍施政期(1945年~1972年)における空白となってきた分野(労働・財政)に検討を加え、これらが沖縄戦後史研究の「空白」と見做されてきた復帰後(1972年~1995年)への展望をひらく上で不可欠であることを明らかにし、その成果を口頭報告および個別論文の形で発表した。「空白期」の問題構成の整理を踏まえ、歴史家高良倉吉が政策提言「沖縄イニシアティブ」を起草するに至った事実の意味を考える上で不可欠の参照枠として設定した。その成果は学位請求論文に集成されている。以下、研究内容の要点を略記する。 ・復帰運動が労働運動の延長線上に展開されることに注目し、その背景に国際自由労連の沖縄への介入と、米軍統治下という特殊状況ゆえの財政政策の機能不全と存在したことを明らかにした。 ・翻って復帰とは、沖縄における財政構造に一定の解決を与え、地方自治研究の分野で論及されてきた「沖縄振興(開発)体制」という軍事基地保全のための方策として再編する契機となったことを明らかにした。 ・復帰後の新しい状況の中で、沖縄の「自立」・「主体性」をキーワードとして展開された3つの論争――琉球処分論争・旧慣期論争・経済自立論議を取り上げた。これらの論争は必ずしも常に、有意な論点を切り結ぶこともなく放置されてきた感がある。しかし、そこでの論点は、いずれの論争においても準当事者的立ち位置で関わった高良を介して「沖縄イニシアティブ」に書き込まれ、同提言をめぐる論争の中で再浮上することになった。 以上、本研究課題では、高良倉吉の思想形成のプロセスを沖縄戦後史上に跡づけるとともに、95年以降という文脈の上で問題化されてきた「沖縄イニシアティブ」をより長い歴史的射程の中で捉え直すことで、そこに含まれる多くの未発の論点を可視化させた。
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