研究課題/領域番号 |
15J04501
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
上杉 祥太 岩手大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 抗がん / 共有結合 / 微生物二次代謝産物 / 標的分子 |
研究実績の概要 |
植物内生糸状菌由来のallantopyrone Aとpyrrocidine A、放線菌由来のbarminomycinは、がん細胞の増殖を強力に抑制するが、医薬品やバイオプローブへの応用において、標的分子の同定と、作用機序の解明が求められる。本研究では、細胞内結合タンパク質を明らかにし、それに起因する細胞応答との関連性の解明を目的として、本年度は以下の結果を得た。 Allantopyrone A (1)で処理したHeLa細胞において、Nrf2の転写標的タンパク質の増加を認めたため、Keap1-Nrf2経路に対する影響を解析した。その結果、Nrf2の核移行、heme oxygenase-1の増加を誘導した。アフィニティークロマトグラフィーにより、1とKeap1の直接的な結合が示された。さらに、PC12細胞を1で前処理することにより、過酸化水素で誘導される細胞死を抑制した。以上より、1はKeap1-Nrf2経路を活性化することが示された。 Pyrrocidine A (2) は、キナーゼ阻害剤と類似のプロテオームの変化を誘導した。実際、がんの生存に重要なPI3K/Aktシグナル伝達経路のAkt、p70 S6K、4E-BP1のリン酸化を阻害した。さらに、上流のPI3Kのp110α触媒サブユニットの活性を直接阻害することが示唆された。 上記1と2は、いずれもα,β-不飽和カルボニル構造を介して生物活性を発現する。微生物由来の化合物の中で、新規物質neomacrophorin類のHL60細胞に対する細胞毒性を見出した。活性が強いIとIVは、α,β-不飽和カルボニル構造を持つため、生物活性との関連性について知見が得られる可能性を考え、作用機序を解析した。その結果、neomacrophorin類が酵素レベルと細胞レベルの双方で、タンパク質分解酵素複合体プロテアソームを阻害することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Allantopyrone Aについては、本年度の計画であった結合タンパク質の同定を達成し、さらにKeap1との結合によるKeap1-Nrf2経路の活性化作用を細胞レベルで検証できた。加えて、本内容については論文投稿まで行うことができたため、計画以上の進展と言える。 Pyrrocidine Aについては、リン酸化シグナルの解析と、直接阻害する因子の解析を本年度の計画としていたが、いずれも実施できたため、概ね計画通りに進行している。 その他、本研究で対象としている共有結合性抗がん物質として、本年度内に新たにneomacrophorin類を見出し、標的分子としてプロテアソーム阻害作用を細胞レベルで証明した。 Barminomycin-DNA複合体固定化担体の作成は行うことができなかったが、上記3化合物の作用機序、標的分子の解明に至ったことから、当初の計画以上に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
Allantopyrone Aは、Keap1の他にも結合タンパク質と考えられるバンドが検出されているため、すべてをLC-MS/MSにより同定し、細胞における作用の全体像を解明する。 Pyrrocidine Aは、PI3Kのp110α触媒サブユニットに対する直接的な阻害活性を確認するとともに、類似性のあるキナーゼに対する阻害活性も調べ、特異性を明らかにする。 また、本年度実施できなかった、barminomycin-DNA複合体固定化担体を作成し、アフィニティークロマトグラフィーにより数種の培養細胞から結合タンパク質を取得する。さらに、LC-MS/MSにより結合タンパク質を同定し、細胞応答との関連性を解析する。
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