研究課題
[目的]閾値下うつ症状はうつ病発症の高い危険因子とされ,その軽減はうつ病への進展を予防するために重要である.行動活性化の閾値下うつ症状に対する有効性は本邦においても示されているが,その脳内作用機序は十分に明らかではない.そこで本研究では,行動活性化の第三者視点による自己認知(メタ認知)に関わる神経基盤への効果について検討した.[方法]うつ症状はBDI-Ⅱを用いて測定した.入学時にBDI-IIの得点が10点以上の大学生を対象に,構造化面接診断面接とBDI-IIを用いたスクリーニングを実施した.その際に再度測定したBDI-Ⅱ点数が10点以上で,かつ過去1年の大うつ病エピソードを除外した61名を介入群(n = 30)と統制群(n = 31)へ無作為割り付けし,行動活性化による介入を行った.介入プログラムの前後で第三者視点による情動語の自己参照課題遂行中の脳活動をfMRIで測定し,介入効果を検討した.[結果]介入群は統制群に比べて介入前後でBDI-IIの得点が有意に改善した. Positive語についてのメタ認知課題において,介入群は統制群に比べて介入前後で背内側前頭前野の活動が有意に上昇し,反応時間も有意に延長した.さらに介入群における介入前後の背内側前頭前野の活動の変化量とBDI-IIの変化率に有意な正の相関(r = .45),BDI-IIの変化率と反応時間の変化率の有意な正の相関が認められた(r = .51).[結論] 本研究において介入群ではメタ認知課題中の背内側前頭前野の活動ならびに反応時間が有意に増加し,介入前後の変化が大きい参加者ほど抑うつ症状が軽減した.背内側前頭前野の活動の増加ならびに反応時間の延長は,メタ認知機能の改善と関連していることから,行動活性化の一つの作用機序として,メタ認知機能とその神経基盤の改善を介した抑うつ症状の軽減の可能性が想定された.
1: 当初の計画以上に進展している
私は自己制御を行う上で非常に重要となってくるメタ認知の神経基盤について研究を行っている.昨年度は自己制御に困難を示した閾値下うつの大学生に対して認知行動療法の一つである行動活性化が,メタ認知とそれに関わる神経基盤にもたらす効果について検討を行い,現在,海外雑誌へ投稿中である.この度の検討によってもたらされた知見は精神医学・神経科学・臨床心理学分野において,大変意義深いものである.さらに,私は当研究室で進行中である他のプロジェクトにも精力的に参加し,従事する中で,主体となってすでにMRIを用いた実験を200回ほど,EEGを用いた実験を100回ほど,MRSを用いた実験を30回ほど行い,論文執筆だけではなく,解析技術や実験手技についても研鑽を積んでいる.
2年目は,大学の前期授業開始時に合わせて,大規模スクリーニングを実施する.具体的には,研究2「実行機能が共感にもたらす影響について大学生を対象とした検討」に関して,IRIを配布する.また,実験への参加協力を同時に呼びかける.調査協力者は300名を予定.スクリーニングに並行して,実行機能と共感の関連に関する倫理申請を行い,許可が下り次第,協力意思のある方に連絡を取り,実験を開始する.2年目の後半は,2年目の前期に収集したデータの論文執筆を行うと共に,必要に応じて前半に行った研究のデータ不足を補う行動実験を行う.また,3年目から取り組む予定である,研究3におけるf-MRIを用いた実験課題の計測が可能になる実験環境を構築する.さらに研究3における実験課題の予備実験も行う.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
European Child & Adolescent Psychiatry. (in press).
巻: 1 ページ: 1-12
10.1007/s00787-016-0842-5