研究課題/領域番号 |
15J04549
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宇仁 暢大 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 白血病幹細胞 / adiponectin |
研究実績の概要 |
本研究の目的はadiponectin(adipo)が白血病幹細胞(Leukemia initiating cell: LIC)の維持に関わるメカニズムを明らかにする事である。まずはC57/BL6(adipo+/+)マウスまたはadiponectinノックアウト(adipo-/-)マウスの造血幹細胞にレトロウィルスを用いて慢性骨髄性白血病(CML)の原因であるBCR-ABL融合遺伝子を発現させ、致死量放射線を照射したマウスに移植してCMLモデルマウスを作製した。同様に難治性の急性骨髄性白血病(AML)で見られる融合遺伝子であるMLL-AF9融合遺伝子を用いて、AMLモデルマウスを作製した。ドナー・レシピエントでadipo+/+またはadipo-/-マウスの何れかを用いる事により、各々4種類ずつの骨髄性白血病モデルを作製した。 CMLモデルマウスの解析では連続移植の系において、ドナー・レシピエント共にadipo-/- マウスを用いて作製したマウスは、他の3種類のマウスと比較して、白血病発症率の低下と発症までの期間の遅延が認められた。CML細胞中の幼若な細胞分画の割合もadipo欠損環境で減少傾向にあり、adipoがCMLのLICの維持に必要という我々の仮説を支持する結果であった。 一方AMLモデルマウスの解析では、二次移植時に発症までの期間、骨髄中の白血病細胞数に有意な変化は認めなかった。adipoを分泌する脂肪細胞を比較的多く含む尾椎の骨髄を解析した所、adipo欠損レシピエントでAML細胞数が多く、幼若なAML細胞の割合が高く、細胞周期に入っている細胞の割合が高かった。以上よりCMLとAMLにおいてadipoは反対の効果を示したが、CMLマウスのLICは造血幹細胞、AMLマウスのLICは造血前駆細胞に近い性質を有することが知られており、adipoの作用は病型あるいは血球分画に特異的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では肥満患者においては骨髄性白血病の化学療法による治療成績がむしろ良好であるという興味深い知見から白血病幹細胞(Leukemia initiating cell: LIC)維持機構関連分子としてadiponectin(adipo)に着目してそのメカニズムの解明を目指している。具体的にはadipoノックアウト(adipo-/-)マウスとC57/BL6(adipo+/+)マウスから回収した造血幹細胞にレトロウィルスを用いて慢性骨髄性白血病(CML)及び急性骨髄性白血病(AML)の関連遺伝子を強制発現させ、これを致死量放射線照射後のマウスに移植する事でCML及びAMLのモデルマウスを作製した。その結果、CMLモデルマウスを用いた連続移植の系においてドナー・レシピエント共にadipo-/- マウスを用いて作製したマウスは、他の3種類のマウスと比較して、白血病発症率の低下と発症までの期間の遅延が認められ、CML細胞中の幼若な細胞分画の割合もadipo欠損環境で減少傾向にあった事からadipoがCMLのLICの維持に必要という我々の仮説を支持する結果でありこの点において順調に進展したと言える。一方でAMLモデルマウスを用いた同様の解析では二次移植時に発症までの期間、骨髄中の白血病細胞数に有意な変化は認めず、幼若な細胞分画の割合やAML細胞数に至っては増加しているというCMLとは逆の結果が得られた。この点についてはCMLマウスのLICは造血幹細胞、AMLマウスのLICは造血前駆細胞に近い性質を有することが知られており、adipoの作用は病型あるいは血球分画に特異的であると考えているがこれについては更に詳細な解析が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに慢性骨髄性白血病(CML)モデルマウスにおいて確かにadiponectinが白血病幹細胞(Leukemia initiating cell: LIC)維持に関与している事が確認出来たが、今後はその分画を同定し、CMLにおいて幹細胞性維持を担う分子機構の解明が必要がある。 申請者の所属研究室で作製したEvi1-GFPレポーターマウス(CML-LICマーキングマウス)を用いて同様の移植実験を行う事で、LICを可視化する事が可能となり、LICが高度に濃縮された細胞分画の機能解析が可能となる。具体的にはこれらの分画の幹細胞性を示すコロニー形成能の比較や移植における白血病再構築能の比較、またこれらGFP陽性分画の細胞数の比較やGFP陽性細胞を用いた限界希釈細胞移植実験を行う予定である。更にLIC分画における網羅的遺伝子発現解析、網羅的タンパクリン酸化解析を行いadiponectinがCML-LICの幹細胞性維持を担う上で用いる作用経路や関連分子の検索を行う。ここで抽出されたシグナル伝達経路・関連分子について、強制発現・ノックダウンなどの遺伝学的手法、あるいは小分子化合物を用いて実際にCML-LICに与える効果を検証する予定である。
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