今年度は、マイクロ流体技術を用いた結晶化制御方法の確立に取り組んだ。タンパク質結晶化は、これまでは熟練者の勘や経験に大きく依存していた。結晶化制御は経験則に基づくことが多く、系内で複数の単結晶が合体や密集すると構造解析が困難になる。そこで、マイクロ流体制御技術と種結晶法を組み合わせたタンパク質結晶化制御方法の確立を試みた。まず、共同研究者から提供を受けた南極産好冷細菌由来のグルコキナーゼ(PsGK)の結晶化制御を行った。PsGKは、従来の結晶化方法(ハンギングドロップ蒸気拡散法)では、結晶同士が集積して良質な単結晶を作製することが困難であった。しかしながら、結晶化空間を精密に制御したマイクロ流体デバイスを用いることで、結晶化の制御が可能であった。また、結晶化空間のサイズ(深さ)によって、結晶化挙動が大きく変化することが明らかになった。具体的には、深さが50μmの結晶化空間ではロッド状の結晶が析出したが、深さが10μmの結晶化空間ではプレート状の結晶が析出した。この現象の普遍性を確認するために、リゾチーム、およびNADPH-シトクロムP450還元酵素-ヘムオキシゲナーゼ(CPR-HO)複合体の結晶化挙動の解析と制御に取り組んだ。CPR-HO複合体の結晶も従来の結晶化方法(ハンギングドロップ蒸気拡散法)では、結晶同士の集積が確認された。一方で、マイクロ流体デバイスでは、1個の単結晶のみを析出させることができた。
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