研究実績の概要 |
本年度は、フィジー語における英語借用語の挿入母音の決定に関する問題に取り組んだ。フィジー語は、音節末子音や子音連鎖を許さないので、それらを持った英語の外来語は母音挿入を受ける。挿入される母音は/i, e, a, o, u/のいずれかであるが、これらの選択が、どのように決定されるのかという問題である。 フィジー語の母音挿入は、「制約と修復戦略の理論 (Theory of Constraints and Repair Strategies)」で説明できると主張した論文を執筆した。TCRSでは、許されない音節に対する制約により母音が挿入され、隣接した分節音の素性が拡張されると想定する。この素性拡張の結果、調音同化や母音転写が生じる。具体的な戦略の決め方は、以下のように簡潔に纏められる。まず、母音が音節末の子音の後ろに挿入される場合、その子音の調音素性によって戦略が異なる。素性が唇性[Labial]や舌頂性[Coronal]のときは調音同化が選ばれ、舌背性[Dorsal]のときは母音転写が選ばれる。また、調音素性の指定がない流音のときは母音転写が選ばれる。次に、母音が子音連鎖の間に挿入される場合、子音連鎖の種類によって戦略が異なる。連鎖する子音の聞こえ度が上昇するときは母音転写、/s/+阻害音のように聞こえ度が下降するときは調音同化が、それぞれ選ばれる。さらに、母音が音節末の子音の後ろに挿入される場合の戦略選択は、ショナ語の外来語適応と、母音が子音連鎖の間に挿入される場合の戦略選択は、トンガ語の外来語適応と、それぞれ似ていることを示した。このことは、フィジー語とこれらの言語が何らかの共通した挿入母音を決定する戦略を持っているということを示唆する。
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