フィジー語は挿入母音を決定する修復戦略として母音転写を示す。通常、語末や語中において挿入母音の前に母音があるときは、その母音を転写し、語頭において挿入母音の前に母音がないときは、後ろの母音を転写する。しかし、語中において、挿入母音の前があるにも関わらず、後ろの母音を転写する例がある。これに関して、韻律投射理論(Ito & Mester 2007 et seq.)の拡張版(Martinez-Paricio 2013)を採用して、フィジー語においてフットは回帰的であると想定し、上記の論理的問題を解決した。EPPTでは、フットは最大・最小投射を示し、主要部(ヘッド)を持つと想定する。フィジー語では、軽音節とフットが回帰的フットを形成すると考える。具体的な分析例として、Februaryとgeographyを取り上げる。これらは、子音連鎖/br/や/gr/を含むが、フィジー語では子音連鎖が禁止されているので、それらの子音の間に母音が挿入される。その母音の決定に、母音転写という戦略が選ばれた場合、標的として前の母音と後ろの母音の2つの選択肢がある。フットは回帰的であると仮定した場合、フットの横にもれた音節(σ)は後続するフットに組み込まれて、全体で再帰的フットを形成する(σ(σσ) → <σ(σσ)>)。((fepe)<ru(eri)>; (tio)<ka(raβi)>、( ) = 強弱フット、< > = 再帰的フット)。データは、Februaryにおいては前の母音の/e/が、geographyにおいては後ろの母音/a/が、それぞれ母音転写の標的となっている。韻脚条件により、母音転写の標的はフット境界を超えないと仮定すれば、 (fepe)<ru(eri)>の挿入母音は前の母音を転写し、(tio)<ka(raβi)>の挿入母音は後ろの母音を転写することが説明できる。
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