研究課題/領域番号 |
15J04610
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小幡 正雄 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ファン・デル・ワールス力 / 密度汎関数法 / 酸素 |
研究実績の概要 |
ファン・デル・ワースル(vdW)力と磁気的相互作用が共存する系を第一原理的に解析する手法として、スピン依存ファン・デル・ワールス密度汎関数の開発・改良を行ってきた。vdW力は幅広く使われている局所密度近似(LDA)/一般化勾配近似(GGA)では、その近似の粗さ故に考慮されていない。そこで非局所的相関エネルギー汎関数を用いたvdW-DF法を用いることで、非経験的にvdW力を見積もる。vdW-DF法はスピン状態を考慮せずに考案されたものであり、vdW-DF法を用いた磁性物質を含む系の解析は不可能である。しかしながら、磁性分子結晶に代表される、vdW力と磁気的相互作用が共存する系の高精度な第一原理的解析手法は、マテリアルデザインの観点からも強く望まれる。そこでvdW-DF法で磁性系を扱う手法として提案していたvdW-DF-SGC法をさらに改善することにより、計算手法の精度向上を図った。磁性系でのvdW-DFに補正される項として、スピン依存勾配補正(SGC)を以前より提案していたが、SGCは酸素分子系のような反強磁性結合がある系において、その引力を弱める方向に働くことがこれまでの研究で判明した。vdW-DF-SGCは電子密度の汎関数として相関エネルギーを計算する手法でありLDA/GGAと同様にバンドギャップの過小評価の問題は解決していない。バンドギャプの過小評価により、反強磁性状態の相互作用は全ての系において過大評価されてしまう。その点をSGCの効果によって補正するという視点から、汎関数の改良を行った。改良した手法は固体酸素α相の系において、強すぎる反強磁性状態の相互作用を弱め、より現実的な結晶構造を記述可能ということが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
vdW-DF-SGC法は、比較的容易に磁性系でのvdW-DF計算を行うことが可能であるが、応用計算例が少ないのが現状である。汎関数の性質を調査するためにも、様々な系への応用計算が望まれる。そこでvdW-DF-SGC法の応用計算として、従来手法では記述が不可能であった固体酸素の高圧相β相について計算を行った。その結果、α相と同様に従来手法より正確な結晶構造が計算されることが示された。しかしながら、α相の場合と同様に反強磁性相互作用が過大評価されてしまう問題が発生した。より高精度な計算を行うためには、その課題点を修正する必要があることが如実に示されたという点でも意味がある結果である。その問題についてSGC項を調節することで改善が可能であることが示すことができたが、固体酸素系の完全な記述には至らなかった。 vdW-DF-SGC法とは異なる形でスピン系へのvdW-DFの拡張方法svdW-DFが2015年に発表された。(T. Thonhauser et al., Phys. Rev. Lett. 115,136402 (2015)) 研究計画作成当初は、vdW-DF-SGC法を基礎にしてより高精度で高効率な手法の開発を予定していたが、svdW-DF法についても調査することで手法改善への知見が得られると予想された。またvdW-DF-SGCとsvdW-DF法の計算結果を比較しておくことは、応用計算を行う際にも重要となる。そこでsvdW-DF法を我々が開発を進めている第一原理計算コードに実装し酸素分子系、固体酸素系の計算を行った。その結果svdW-DFはvdW-DF-SGCと非常に近い結果を与えることが判明した。現在複数の系において、両者の手法の妥当性を調査している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのvdW-DF-SGC法とsvdW-DF法の結果を通して、非局所相関項以外の項である交換エネルギー汎関数や電子相関効果の取り扱いにも問題があることが示唆された。そこでさらに高精度なDFT+U法、第一原理RPA法、多体電子論に基づくGW計算を用いることで、詳細な電子状態の解析を行い、問題点を明確にし、より高精度なスピン系でのvdW-DF手法を提案していく予定である。vdW相互作用は比較的小さなエネルギースケールに基づく相互作用であり、交換エネルギーや強い電子相関の影響もより精度よく扱うことで、全体としてより高精度な手法になる。GW計算等を使い高精度な電子状態を調査し、その電子状態を再現するように、交換エネルギー汎関数の改良や電子相関の効果をDFT+U法等により補正することで、高精度化の手法を研究する予定である。
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