研究課題
太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工光合成システムの達成はサステナブルな社会を構築していくうえで必要不可欠である。これまで、人工光合成の一つのプロセスである水の酸化反応について、高効率かつ安価な金属を用いた触媒を開発した。また、酸素の還元触媒と複合化することで、水と酸素から過酸化水素を製造することができた。しかし、二酸化炭素の削減やエネルギー密度の観点からも、太陽光エネルギーを利用して水を電子源に二酸化炭素の還元からギ酸やメタノールなどといった有機物を合成することが求められている。現在、二酸化炭素の還元触媒は主にレニウムやルテニウムの単核金属錯体を用いた光化学反応や白金や銅などの金属を用いた電気化学反応が報告されてきたが、強い還元剤や高い過電圧を必要とする。そこで、本研究の目的は、二酸化炭素還元触媒として機能するヘテロ二核金属錯体の開発と、その錯体と光駆動型の水の酸化触媒と組み合わせることで、水を電子源として、二酸化炭素をギ酸やメタノールへと変換する複合光触媒システムを構築することである。ヘテロ二核金属錯体において、二酸化炭素配位部位と二酸化炭素還元部位をそれぞれ近傍に配置することで、二酸化炭素を高効率かつ高い生成物選択性をもって還元することが期待できる。本年度は、ジピリジンピラゾール配位子を骨格とするルテニウムーコバルトのヘテロ二核金属錯体の合成に成功し、その結晶構造を決定した。ヘテロ二核錯体にあるルテニウム中心とコバルト中心の反応サイトが互いに反応できる向きにあることが分かった。また、このヘテロ二核錯体を用いた二酸化炭素の光還元反応では、光増感剤であるルテニウムトリスビピリジン錯体、犠牲還元剤のBNAHを含む溶液に可視光を照射することで反応が進行し、一酸化炭素が生成した。実際に、反応サイトが隣接するヘテロ錯体が二酸化炭素の還元に対して活性があることを示した。
2: おおむね順調に進展している
反応サイトが近傍に存在するヘテロ二核錯体は、これまで合成が困難とさせていた。その合成に成功し、結晶構造を決定したことは、大きな進展と言える。また、合成したヘテロ二核金属錯体を用いた二酸化炭素の光還元反応において、一酸化炭素に還元することができた。
合成したヘテロ二核金属錯体を用いた二酸化炭素の光還元反応において、一酸化炭素の生成が認められた。期待していたほどの触媒活性を示さなかったが、今後、配位子設計を再検討し、高効率な二酸化炭素の光還元触媒を合成できると考えている。また、ヘテロ二核金属錯体は、光還元反応に留まらず、電気化学反応にも応用できると期待できる。
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Inorganic Chemistry
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