研究課題/領域番号 |
15J04654
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
平谷 拓生 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 薄膜レーザ / 半導体レーザ / DFB / DR |
研究実績の概要 |
本年度は薄膜レーザの高効率動作を目的とした。これまでに作製した薄膜DFBレーザでは230 μAという低しきい値での動作を実現してきたが、光の取り出し効率である外部微分量子効率が片面5%程度と非常に低いことが問題であった。そこで、本研究では薄膜DFBレーザの片側にDBRを導入した薄膜分布反射型レーザを提案し、実際に素子の試作を行った。 レーザ構造の作製には導波路材料となるGaInAsPの埋め込み再成長およびpn接合形成のための2回の選択再成長が用いられた。その後、SiO2クラッド層を成膜し、ベンゾシクロブテン(BCB)と呼ばれる有機材料を介して、Si基板と貼り付けを行った。貼り付け後、InP基板側を研磨およびウェットエッチングによって除去し、電極蒸着を行い、最後に電子線描画を用いて回折格子形成を行った。 今回試作した素子は、DFB領域長30 μm、DBR領域長90 μmであり、前後に導波路が接続されている。しきい値電流250 μAおよび前端面外部微分量子効率11%、後端面外部微分量子効率1.6%が得られ、前後出力比としては6.7が得られた。この結果から、低しきい値電流を維持しながら、非対称光出力動作を実現できたといえる。しかしながら、前端面からの効率を理論値と比較すると1/6程度となっており、今後さらなる効率の向上が期待できる。今回、効率が低い原因としてはDBRブラッグ波長の不一致と導波路損失が大きいことが考えられる。DBRブラッグ波長の不一致については、DBR回折格子周期を調整することで、DBRブラッグ波長とDFBモードの発振波長を一致させることが可能である。また、導波路損失については、導波路領域のサイドクラッドに吸収係数が比較的高いp-InPが用いられていたことが一つの理由として考えられる。今後InP細線導波路などの導入により導波路損失の低減が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は、半導体薄膜レーザに分布反射型構造を導入し、低電流動作を維持しながら高効率動作を実現することであった。これまでに、薄膜分布反射型レーザを試作し、先行研究のおよそ2倍の効率を得た。このような意味で、おおむね順調に進展していると思われる。しかしながら、今回得られた値は理論値の1/6程度でさらに改善の余地がある。効率の改善については、低損失な導波路構造の実現と反射鏡の回折格子設計の見直しが今後必要である。導波路についてはInPの細線導波路などの導入を検討している。回折格子の設計については、回折格子周期を微調整することで、反射鏡のブラッグ波長を短波長側にシフトさせる。また、しきい値電流に関しても250μAという値を得たが、この値をさらに半分以下にまで引き下げる必要がある。このためにはさらに高い屈折率結合係数の構造を導入し、活性層体積を減少させることが有効であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で半導体薄膜レーザに分布反射型構造を導入し、低しきい値動作および非対称出力化により先行研究の約2倍の光出力特性を得ることができた。しかしながら、しきい値電流が目標とする100μAに届いていないこと、光出力特性が理論値の約1/6であることなど、静特性としての課題も多い。 今後の研究についてはまず、しきい値電流の低減および効率向上といった静特性の性能向上を目指す。しきい値電流に関しては、回折格子の屈折率結合係数をさらに増大させ共振器長を短くすることで実現する。また、効率に関しては、細線導波路構造の導入などにより低損失光導波路を実現することや反射鏡部分の回折格子設計の見直しなどにより、理論値に近い効率を実現することを目標とする。 また、次年度では、信号伝送実験も行い、薄膜分布反射型レーザの動特性評価を行う予定である。
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