本研究では、LSIチップ内部の長距離配線における課題を解決するために薄膜光集積回路の導入を検討しており、その光源であるメンブレンレーザの高性能化を主目的としている。昨年度までに、分布反射型構造を導入した構造を提案・作製しこれまでの約2倍程度の微分量子効率を実現した。しかしながら、理論値と実験値の間には6倍程度の大きな差が生じていた。また、昨年度までは静特性の評価のみにとどまっており、動特性についても評価が必要であった。これらの点を踏まえ、今年度はメンブレンレーザの低しきい値電流、高効率および高速動作の実現を目指した。これに加え、チップ上応用では必須となる高温動作化に向けて温度特性についても検討した。 まず、光取り出し効率が低い理由としては、活性DFB領域で決まる発振波長と受動DBRのブラッグ波長が一致していないことによる反射率の低下や前方に集積された受動光導波路における損失の影響などが考えられる。今回、発振波長とDBRのブラッグ波長が一致するようにそれぞれの領域の回折格子周期を設計した。また、導波路の影響を無視できるように、活性DFB領域において劈開を行った。その結果、DFB領域長61 μmの素子において、しきい値電流0.48 mA、前面外部微分量子効率26%の低しきい値電流・高効率動作が得られた。この効率はこれまでに報告されたSi基板上GaInAsP/InPメンブレンレーザの中で最大である。さらに、この素子を用いて動特性の評価を行ったところ3dB帯域として9.7GHzという値が得られ10Gb/s動作に十分な帯域を確認した。10Gb/sの信号伝送実験においては、雑音の影響でエラーフリー動作は得られなかったが、端面反射の抑制などにより改善可能である。 最後に、DFB領域長30μmの素子について温度特性の評価を行い、1mA以下のしきい値電流で90℃までの連続発振を実現した。
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