研究課題
申請者は基礎検討を実施し,その成果を踏まえ本実験データの収集を開始した。①閾値下のうつ症状を有する者を対象とした予備的検討まず診断基準を満たさない閾値下うつ症状を有するものを対象に申請課題と同様の測定パラダイムである安静時の機能的磁気共鳴画像(fMRI)測定を実施し行動的特徴との関連を検討し,さらにそこから見出された行動変容プログラムを実施した。初めに安静時脳機能異常がデフォルトモードネットワーク(DMN)で見出され,それが閾値下うつの報酬知覚低下と関連を示したことから次に閾値下うつ40名を無作為に2群に割付け,一方の群にのみ5週間の行動活性化プログラム(日常生活における正の報酬が随伴する行動を増やすことを目的とした心理介入)を行った。その結果,行動活性化によって前DMNにおける顕著性ネットワークへの拡張が介入後に縮小した。これらで検出されたDMNは自伝的記憶の概括化にも深く関連が示唆されており,うつ病で数多く異常が報告されている。今後はこの領域を仮説領域とし,よりうつ症状の高い対象者を用いて申請課題を遂行する。これらの研究は平成28年度に開催された国際学会・国内学会で公表し,平成28年7月の日本うつ病学会では学会奨励賞を受賞している。②うつ症状を有する者に対する行動活性化と安静時・報酬期待時の脳機能の測定上述の検討を踏まえ高いうつ症状を有する者に行動活性化を適用し,その前後で安静時脳機能を測定する実験を開始した。同時にこれまで報酬知覚の関連がみられたことから将来の報酬獲得を推定し選択する課題を作成するための予備検討も実施した。予備実験はすでに終了しており,おおむね期待通りの結果が得られている。また本実験については現在まで4名のデータを収集しており,データの下処理および記憶想起課題の録音データに対するテープ起こしを同時に行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
研究はおおむね順調に進捗し,成果をあげることができた。本年度は数例のうつ症状を有する者を対象に,前年度までの検討で有効性が示唆された行動活性化プログラムを適用し,その前後で記憶の概括化の評価とfMRIによる脳機能測定を実施した。またこれまで安静時脳機能に着目し一定の成果が得られているが,これまでの検討を通して予想された報酬関連の脳機能の関与を包括するため,これを目的としたfMRI課題作成にも取り組んだ。収集したデータについては現在解析を行っているところではあり,また対象者も数例ではあるが,この試みはいまだ先行例がなく行動変容による記憶の概括化の変化およびその神経基盤が明らかになれば,うつ病の再発を強く予測する要因への介入提案が実現でき有益である。また,先立って実施された基礎検討らは下記の成果公表の通り積極的に公表し,学会奨励賞を受賞するなど関連研究領域に大きく貢献している
前年度から引き続き閾値下うつ,および健常者を対象としたデータ収集を行っており,これについては平成28年度中に予定症例数に達した。また同年度にはうつ病を対象としたデータ収集を開始したが十分ではないため,今後はこれを中心に行っていく予定である。現在追加の倫理審査がおおむね承認される段階であり,6月頃より本募集が可能になる。データ収集が完了した時点で解析,結果のまとめを行い,成果として国際誌へ投稿し公表していく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Psychological Medicine
巻: 47 ページ: 877-888
10.1017/S0033291716002956
Journal of Affective Disorders
巻: 204 ページ: 70-73
10.1016/j.jad.2016.06.046