研究課題/領域番号 |
15J04682
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣戸 孝信 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 準結晶 / 近似結晶 / 複雑構造結晶 / 中性子散乱 / Γ相 / 傾角強磁性 / 磁性 |
研究実績の概要 |
複雑構造結晶は、通常の金属結晶には持ち得ない特異な物性・機能を有することが期待されている。本研究では、複雑構造結晶中でも、特に準結晶や近似結晶に代表される正20面体クラスター固体に特に着目して研究を行っている。 我々は、Tsai型クラスターを有する近似結晶における長距離磁気秩序の形成について報告してきた。この結晶は、希土類イオンが正20面体を形成しており、それが体心立方的に配列した特徴的な構造を有する。今年度は、多結晶を用いたバルク測定から傾角強磁性を有すると報告したAu-Si-Tb結晶に関して、単結晶中性子磁気散乱実験(昨年度実施)のデータの再解析を実施した。再解析の結果、傾角強磁性構造は同一の鏡映面上のモーメントがいずれも<0 1 0>を向き、その鏡映面が直交した強磁性構造として理解できる。この特徴的な磁気構造はRKKY相互作用よりも、むしろ1軸磁気異方性が重要な因子であることが予想される。本解析において初めて、固体物質中の正20面体スピンクラスターの微視的構造が明らかとされた。 また、新たに、複雑構造結晶という観点からZn-Feガンマ相に関する研究を始めた。ガンマ相では、FeがZn 20面体に囲まれた構造をとっており、局所的には20面体構造を有していることが共通する特徴である。昨年度、アメリカの研究グループが、Zn-Feガンマ相の強磁性的な挙動を報告したことが契機となって、詳細な研究を実施した。Zn-Feガンマ相は、Feの組成域が比較的広いことも一つの特徴であり、放電プラズマ焼結法と熱処理を組み合わせた手法で、組成を制御した単相試料を作製した。これらの試料の磁化率測定から、Fe濃度の減少に伴い、強磁性的振る舞いが観測され、現在までに、Fe = 23 at.%の仕込み組成において、Tc = 89 Kが得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の目的は、Tsai型クラスター結晶における磁気秩序や量子臨界現象などを中心とした特異な物性を示す物質の探索が主目的としてあり、物質合成に比重を置いて研究を遂行してきた。しかしながら、とりわけ準結晶を中心とした物質合成には未だに成功しておらず、研究の遂行上の課題の一つである。 一方で、今年度から新たに始めたZn-Fe金属間化合物の中でも、特にΓ相に関する研究は、組成を制御した合金相の合成に成功したことで、新たな研究が始まりつつある。Feプア側の試料で見られた強磁性的振る舞いと磁化の組成依存性は既往の研究には見られない現象であり、新たな知見を得ることに成功したと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
新たなTsai型クラスター結晶の探索に関する研究は、今後も継続的な課題である。一方で、これまでの研究により、Au-Si-R(R=Tb,Dy)で報告してきた傾角強磁性構造について、その詳細な磁気構造は昨年度までにその様相が明らかとなったといえる。この結果に基づくと、希土類イオン間に働くRKKY相互作用よりも、希土類イオンの結晶場に由来すると考えられる1軸磁気異方性が磁気秩序の形成に重要であることが示唆されている。したがって、本年度は、中性子非弾性散乱実を通じて、希土類イオンの結晶場分裂の様子を明らかとする。この際、クラマースイオンと非クラマースイオンの役割を考察するために、2つのモデルケースとして、Au-Si-TbおよびAu-Si-Dyに関して測定を行うことを計画している。 一方で、Zn-FeΓ相に関しては、より詳細なデータを収集する必要があり、構造解析に加えて、低温比熱測定や電気抵抗、交流磁化測定を実施し、より強磁性的相転移を多角的に明らかにする。また、Feサイトを他の遷移金属に置換することで、転移温度の上昇を試み、クラスター固体の材料としての可能性の検討を行う予定である。
|