研究課題/領域番号 |
15J04691
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
張 超亮 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | スピン軌道トルク / スピントロにクス / 電流誘起磁化反転 / 磁気トンネル接合 / 三端子MTJ |
研究実績の概要 |
今年度は、主に以下の三つの成果が得られた。 (1) ナノススケールのTa/CoFeB/MgOドットにおけるSOT磁化反転:これまでスピン軌道トルク(SOT)磁化反転の閾電流密度には実験値と理論値の間で大きなギャップがあり、その要因の一つとして磁化反転の際の磁化構造の不均一性が考えられていた。本研究では、磁化が空間的な均一性を保って反転することが期待される直径30 nm までのTa/CoFeB/MgOドットを持つ素子を作製し、磁化反転に必要な電流密度のドットサイズ依存性を系統的に評価し、磁化の不均一性と反転電流密度の関係を明らかにした。 (2) 反強磁性体/強磁性体二層構造におけるSOT磁化反転:磁化容易軸が垂直方向となるスピン軌道トルク磁化反転素子では、磁化反転の際に面内方向に外部磁場を印加する必要があり、これが応用上の課題であった。本研究では従来非磁性体が用いられていた部分に反強磁性体を用いた場合にも磁化反転に十分なSOTが生じ、またこの場合には反強磁性体/強磁性体界面における交換結合により無磁場でのSOT磁化反転が実現できることを明らかにした。 (3) 新規SOT磁化反転スキームの動作実証:これまでに用いられていたものとはジオメトリの異なる、電流と磁化容易軸が平行となる新しいSOT磁化反転スキームを提案した。それを用いた三端子デバイスを作製し、磁化反転動作を実証した。 以上の三つの研究は、SOT磁化反転の機構の解明に寄与するとともに、三端子磁気トンネル接合素子の研究開発を加速すると期待される。成果(1)を筆頭著者、成果(2),(3)を共著者として、それぞれ一流論文誌(Applied Physics Letters, Nature Materials, Nature Nanotechnology) に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、低消費電力かつ高機能な不揮発メモリ・不揮発論理集積回路の実現を可能とするスピン軌道トルク(SOT)を用いた3端子磁気トンネル接合(MTJ)素子の開発を目的として、(1) SOT磁化反転の素子サイズ依存性、(2) 材料・構造の検討、(3)素子の作製と評価方法の確立の三項目の研究を計画通りに進め、重要な成果が得られた上、次年度の研究の土台を築くことができた。 (1) SOT磁化反転の素子サイズ依存性: Ta/CoFeB/MgOを用いたナノメートルスケールの素子の作製プロセスを確立し、ナノ秒までの高速磁化反転動作を測定した。SOT磁化反転の素子サイズ依存性を評価し、磁化反転時の磁化の空間的な不均一性と磁化反転閾電流密度との関係を系統的に調べた。その結果、マイクロメートルサイズの素子を用いた場合にはSOT磁化反転の効率が磁化構造の不均一性などにより過大評価されていること、及びSOTが磁化にどのように作用するかを定量的に明らかにした。これらの知見及び素子の微細加工技術・高速動作評価技術は今後の材料・素子開発に役立てられると考えられる。 (2) 材料・構造の検討: 無磁場での書き込みが可能な三端子SOT-MTJ素子を実現するため、反強磁性体PtMnの積層構造を持つデバイスを作製し、無磁場での磁化反転動作を実証した。また、低書き込み電流密度を実現するためのチャネル層材料(タングステンなど)の検討も開始し、重要な知見が得られ始めている。 (3) 素子の作製方法と評価方法の確立: Ta/CoFeB/MgOを基本構造とする三端子MTJの作製方法を確立し、磁化容易軸が電流と平行な新しいSOT磁化反転スキームを持つ三端子SOT-MTJ素子を試作し、その書き込み動作を実証した。ここで構築したフローを用いて、スピン移行トルクとスピン軌道トルクを併用して磁化を反転する三端子素子の開発も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主に以下の3項目の研究を計画している。 (1) 材料の検討:低書き込み電流密度を実現するためのチャネル層材料の開発を目的として、SOT磁化反転の閾電流密度のチャネル層材料、及びその成膜条件依存性を調べる。具体的な推進方策としては、まず異なるスパッタリング条件でタングステンなどの重金属を成膜し、それらの結晶構造と抵抗率のスパッタリング条件依存性を調べる。そして、それらの材料をチャネル層に用いたナノメートルスケールのデバイスを作製し、SOT磁化反転の閾値電流密度を評価する。その上で、磁化反転効率が材料、及びスパッタリング条件によってどのように変化するかを明らかにし、閾電流密度の低減指針を示す。 (2) 高性能な三端子磁気トンネル接合素子の実証:スピン移行トルクとスピン軌道トルクを併用した磁化反転手法について解析的、数値的な検討を行い、効率的な磁化の反転が可能な素子の構造を設計する。その上で、これまでに得られた材料、構造に関する知見を基に垂直磁化三端子MTJ素子を作製し、ナノ秒、サブナノ秒の電流パルスによる高速磁化反転動作の実証を行う。 (3) スピン軌道トルク誘起磁化反転、及びスピン軌道トルク発現機構の理解の促進:これまでに得られたSOT磁化反転の素子サイズ依存性、材料・構造依存性、及び三端子SOT-MTJ素子の動作結果をもとに、スピン軌道トルクがどのようなメカニズムで発現し、それが磁化に印加された際に磁化がどのような動的な振る舞いを示すかに関して体系的な理解を深める。
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