研究課題/領域番号 |
15J04698
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 佑一 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 選択的溶媒和 / ソルバトクロミズム / 液体の積分方程式理論 / 3D-RISM-SCF法 / RISM-SCF法 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
ある種の色素は混合溶媒中で特徴的なソルバトクロミズムを示す。これは選択的溶媒和によるものである。例えばブルッカーメロシアニン(BM)のアセトニトリル溶液に水を加えると、水がBMに対して選択的に溶媒和し、不均一な溶媒和構造を形成するため、少量の水分子で大きな吸収スペクトルの変化が見られる。この現象を理論的に取り扱う手法として有用と考えられるものの1つが3D-RISM法などの液体の積分方程式理論である。本研究では、選択的溶媒和の記述を可能にする積分方程式理論の開発と化学現象への応用を目的としている。 本年度は混合溶媒中での選択的溶媒和を解析する上で基礎となる、純溶媒中でのBMのソルバトクロミズムの解析を液体の積分方程式理論と量子化学計算を組み合わせた手法の1つである3D-RISM-SCF法を用いて行った。その結果、吸収スペクトルの溶媒依存性を再現し、その傾向はBMの基底状態と励起状態の双極子モーメントの変化から説明された。さらに、溶媒依存性に対する置換基効果についても再現し、その要因はt-Bu基の立体障害であることが示唆された。この研究内容をまとめた論文がJournal of Computational Chemistry誌に掲載された。 また、これに引き続き、混合溶媒中でのソルバトクロミズムの例として、上でも述べたBMのアセトニトリル/水混合溶媒中における吸収スペクトルの計算をRISM-SCF法と3D-RISM-SCF法を用いて行った。しかし、水のモル分率に対する吸収スペクトルの依存性の傾向を定性的にも再現しないという結果を得た。BM周りの溶媒の配位数等の解析から、傾向を定性的にも再現しない理由として、水の配位数がモル分率に対する線形関係から求まる数よりも小さいことが挙げられる。つまり、これら2つの手法では選択的溶媒和を記述できていないという結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混合溶媒中での選択的溶媒和を理論的に解析する上で基礎となる、純溶媒中におけるソルバトクロミズムの解析を3D-RISM-SCF法を用いて行うことができ、その内容を論文として発表することができたため。また、RISM-SCF法と3D-RISM-SCF法の混合溶媒中におけるソルバトクロミズムに対する適用性の調査も進めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
RISM-SCF法や3D-RISM-SCF法で混合溶媒中でのソルバトクロミズムの傾向を再現できなかった(選択的溶媒和を記述できなかった)のは、これら2つの手法が均一な溶媒分布を仮定していることに起因していると考えられる。 一方、液体の積分方程式理論以外の溶媒を分子論的に扱う手法として分子シミュレーションがある。この手法では均一な溶媒分布を仮定していないため、液体の積分方程式理論とは異なる溶媒和構造が得られると考えられる。 そこで今後は、分子シミュレーションを用いて溶媒和構造等を求め、RISM-SCF法や3D-RISM-SCF法による結果と比較し、そこから得られた知見を基に選択的溶媒和を記述可能な液体の積分方程式理論の開発と化学現象への応用を試みる予定である。
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